。しめたツ! からだを屈めてそれを拾ふ。「……月の光にすかし見れば、銀貨だと思つたのはビールの栓であつたあ……」といふやうな歌につれて、書生は、いまいましさうに、そいつを投げ棄てる。やがて、また、何か見つけた様子である。前と同じ動作を繰り返す。今度は「簪の玉かと思つたら、梅干の種であつたあ……。」
 誇張に過ぎず、独り合点に陥らず、微細な表情と動きに、おのづからなユウモアを漂はして、見事に見物の頤を解かした。次の幕、八木節に合せる泥鰌掬ひのパントマイムは、野趣極まつて卑俗に流れ、達者にまかせて擽りの過ちを犯してゐた。
 さてと、開き直るほどでもないが、当夜の出し物中、大体に於いて、役者が苦心してびくびくやつてゐるものは失敗の憂目に遭ひ、楽に愉快にやつてゐるものは、あれでも何かしらを見物に与へたといつていい。力に余るといふことの悲しさを僕はここでも感じた。
 素人天狗の図々しさもなく、芸術家気取りの重苦しさもなく、雨に飽きた夏の一夜を、ゆくりなくも楽しませてくれたこの劇団の労を謝する次第であるが、僕をして一言、註文を出すことを許して貰へるなら、この種の素人劇団は、所謂職業俳優の糟粕を嘗め
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