を惹きつけた。
 この新作家については、何れ詳しい批評を書きたいと思ふのだが、私は、この一作によつて、彼が既に、わが劇壇に於て占むべき地位を予想することができるのである。しかも、最も注意すべきことは、何よりも彼が、その出発点に於て、従来の何人よりも、戯曲家らしき戯曲家の風貌をもつて現はれたといふことである。
 難を云へば、描かうとする対象を前にして、作者の感情が純粋に昂まつてをらず、一々の人物に対しても、その輪郭の決定がやや散漫であるやうに思へる。が、しかし、これは、今日の川口君に向つては、隴を得て蜀を望む類ひであらう。
 阪中君といひ、川口君といひ、共にこの雑誌(「劇作」)に拠る人々であることは、誠に雑誌のためにも心強い次第だが、私は、昨今新劇復興の機運を察するにつけて、益々両君の自重活躍を祈るものである。(一九三二・五)



底本:「岸田國士全集21」岩波書店
   1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「劇作 第一巻第三号」
   1932(昭和7)年5月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田
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