『馬』と『二十六番館』
岸田國士
阪中正夫君の『馬』が改造に当選したといふ話を聞いて、私は「不思議」なやうな、「当り前」のやうな気がした。
阪中君は、凡そ懸賞当選に不向な、いはば山ツ気のない作家であり、同時に、当選するしないに拘はらず、当選のレベルを遥かに越えた作品を、既にもう幾つか発表してゐるからだ。
六七年も前から、戯曲一本道を、倦まず撓まず歩いて来てゐる彼は、世が世ならば――といふ意味は、世間がもつと戯曲に関心をもつてゐる時代なら――疾くに真価を認めらるべき作家である。
今度の『馬』は、私の数多く読んだ彼の作品の中で、色調こそやや異つてはゐるが、特に傑れてゐるといふほどのものではないと思ふ。しかし、彼の抒情的な本質が底を流れ、表面は素朴な生活描写で一貫するところ、人物のファンテジイに富む対立と相俟ち、彼の劇作家的才能が、いよいよ、その翼をひろげかけた一例として、やはり、見逃し難い作品である。
また、川口一郎君が、「劇作」四月号に発表した『二十六番館』は、同君の処女作であるが、その材料の特異なことと、外国の舞台から直接影響を受けたらしい緻密な技巧とによつて、先づ私の興味
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