とる技術」とか、いかにもフランス人らしい好みの題目が掲げられてゐる。日本人なら、技術とは云はず、秘訣とか心得とかいふところであらう。或は、「道」といふかも知れない。従つて、そこには、「たしなみ」とも通じるものがあり、それはそれとして文化的な価値標準を基礎としたものであり、倫理的、科学的並に審美的なセンスが働いてゐることは見逃せない。
フランス人モオロアの思想は、日本人からみれば、一方あまりに超国境的で、例へば、その「生活観」の如きも、いはゆる個人主義的な立場を脱してゐないと云へるけれども、さういふことはこの書物を読みながら誰にでも感じられることであつて、今のわれわれにとつては、それさへも心して読めば一つの貴重な教訓を含んでゐると考へられる。
私は、日本国民の一人一人が「生活」といふものをもつと広く、そしてもつと深く考へていかなければ、ほんたうの「文化」の建設は困難だと思つてゐる矢先であるし、かういふ書物の紹介も、たしかに大きな意義があると思ふ。特に、あらゆる方面に於ける指導的人物に、この書物の一読を薦めたい。なぜなら、どんなに機微な問題でも、事、日本人全体の名誉と幸不幸に関する限り
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