ものとか、忙しくて時間がないものとか、婦人とか子供とか――とにかく、特別な条件のついた読者の範囲を頭において、これまでの小説は書かれてゐたのである。さういふものもあつていゝけれど、さうでないものがなければならぬ。これこそ、私たちが、いま、文学にもとめてゐるものではないかと思ふ。そして、これは作家にとつて最も困難な、しかし命をかけても惜しくない道である。
 出版者側のかなり非打算的な協力に信頼し、作家諸氏の熱意と努力とを私は感謝をもつて見まもつてゐる。
 福田清人氏の「桜樹」は、かくしてこゝに脱稿をみたわけである。
 これ以上、私はなにも云ふ必要はない。ひろく読まれることを希ふばかりである。
  昭和十七年九月一日



底本:「岸田國士全集26」岩波書店
   1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「桜樹」翼賛出版協会
   1942(昭和17)年10月20日発行
初出:「桜樹」翼賛出版協会
   1942(昭和17)年10月20日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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