したくなる。
 殊に、芝居などといふものは、もつとハイカラにならなければいかん。第一、見物が窮屈で困る。舞台もさうだが、劇場内の空気がもつとハイカラにならなければ駄目だ。この空気は、もちろん、見物が作り出すものであると思ふが、変にどんより[#「どんより」に傍点]としてゐて、こはばつて[#「こはばつて」に傍点]ゐてやりきれない。舞台が面白くないんだから、せめて見物の方で面白さうな顔をしてゐてくれなければ、実際、芝居なんていふものを見に行く気になれない。ハイカラな見物は舞台に退屈しても、廊下では愉快に話をするものである。
 話がわき道にそれたが、私の知つてゐる一人の青年美学者は、たしか、大学の卒業論文に「粋について」といふやうな題目を選んだと聞いてゐるが、不幸にして私は、まだその論文を読んでゐない。いつか会つたら、今度の博士論文に、「ハイカラについて」といふ題目を選ぶやうに勧めて見るつもりである。それとも、彼は、既に、「蛮カラについて」といふ論文を起草してゐるかしら。いや、そんなはずはない。わがK君は、たしかに、私の見るところ、極めてハイカラな紳士であつたから。嘗て彼が、もつとも「粋な学生」であつたであらうやうに。(一九二六、三)



底本:「岸田國士全集20」岩波書店
   1990(平成2)年3月8日発行
底本の親本:「時・処・人」人文書院
   1936(昭和11)年11月15日発行
初出:「東京朝日新聞」
   1927(昭和2)年4月3、4、5日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年10月6日作成
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