。「ほんとうに」生きようとするものは、そんな文学に用はない。
甲――用が無いと云はれゝば仕方がないさ。おれは、君達の為めに文学をやつてゐるのではないと云ふまでさ。だが、最後に断つて置くが、ほんとうだかどうだかわからないことを「ほんとうだ」と云ふ方が、おれには出鱈目のやうに思はれる。真面目に人生に対してゐるかゐないか、それは真面目といふ言葉の意味から決めてかゝらなければならないが、おれたちには、人生と睨めつくらができないだけの話さ。おれたちは、文学の中に人生そのものよりも、人生を観てゐる作者の眼を探すのだ。そして、その眼の中に、「新しい人生」を発見するのだ。「明るい文学」とは作品の中に光つてゐる「作者の眼の明るい輝き」以外のものではない。
乙――お前には文学といふものが解つてゐない。
甲――君はわかつてゐるのか。
[#ここで字下げ終わり]
底本:「岸田國士全集20」岩波書店
1990(平成2)年3月8日発行
底本の親本:「創造日本 八月号」
1927(昭和2)年8月1日発行
初出:「創造日本 八月号」
1927(昭和2)年8月1日発行
入力:tatsuki
校正:
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