「満洲国各民族創作選集」選者のことば
岸田國士

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 満洲に文学が生れようとしてゐる。多くは満洲の文学を生まうとする人たちの手によつてである。
 私は先年満洲のところどころを歩いて、そこで新しい国が興り、いくつかの民族のまつたく異つた伝統と生活のうちから、どこでも万人共通の歴史がすでに呼吸しはじめてゐるのを感じ、これがやがて民族の特殊性を超えたのつぴきならぬ国民的意識を形づくつて行つたならば、非常に多彩な、前例のない精神の一典型を示すに至るであらうといふ期待をもたされたのである。
 いくつかの言葉で書かれたこれらの作品のそれぞれは、或はまだ日本文学であり、中国文学であり、ロシア文学であるかもわからない。しかし、文学を育くむ環境と時代の影響は、作家が意識するとしないとに拘らず、その思考と感性のうへにはつきり映らずにはゐない。私は満洲の文学が若ければ若いほど大きな希望をつなぐも
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