ふ。これまでの演劇雑誌は、有為な編輯者の個性を通して、それぞれ異つた特色を具へ、それによつて、充分、その時代を益し、読者を満足させたには相違ないが、前にも述べた如く、雑誌といふものゝ性質を尊重した結果が、殆ど例外なく、「演劇の流れ」の中に在つて、それを上下してゐたやうに思はれる。これは、空想の演劇をして実在の演劇と共に自滅せしめる危険を伴ふことになる。私はあくまでも、演劇雑誌といふ約束に囚はれず、「流れ」の外にあつて、演劇の相を観きわめたいと思ふ。
 従つて、「悲劇喜劇」は、一面、研究的であり、また、啓発的であるかも知れないが、それ以上に、趣味的であり、親和的であることを努めるつもりである。
 これは決して、一般向をねらつて、売行を多くするためではない。それどころか、私一個の考へでは、さうすることによつて、読者の範囲は一層限られるだらうと思つてゐる。これは止むを得ない。せめて、確実な読者を、ある数だけ維持することができれば、それで満足しなければなるまい。長谷川君の意向で、雑誌は市場に出さず、直接購読者を募ることにした。
 創作月刊編輯部の好意に甘へて、発行所は東京市芝区下高輪第一書房で
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