「追憶」による追憶
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#「よし」に傍点]
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八月号で芥川竜之介氏の「追憶」といふ文章を読み、誰でも同じやうな追憶をもつてゐるものだといふことを知り、転た感慨を催した次第であるが、昨日、K社の山本氏に会ひ、たまたま芥川氏の近況を知ることを得た。それで本誌への責ふさぎかたがた、この一文を草することにした。病床にある同氏への御見舞ともなればこの上もない幸せである。
幼稚園
僕の通つた幼稚園は、四ツ谷の津の守坂にあつた。今はもうあるまいと思ふが、大きな椎の樹が遠くから見えた。椎の実が落ちる頃、僕はよく風邪を引いて休んだ。
僕のおやぢは、その頃陸軍の大尉だつたので、僕にも軍服をそのまま小さくしたやうな服を著せたものである。しかし、袖の筋は二本しかつけてくれなかつた。おやぢのは、いふまでもなく、三本だからである。
幼稚園への送り迎ひをしてくれた女中は、なかなかの才女で、僕に百人一首を暗誦させたのださうだ。
僕は、途中で一度うんこがしたくなつた。彼女は、顔
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