の芝居が裏表から語られてゐる。
「身辺雑事」は、氏の善良なる「パパ振り」を発揮した、しかも、なか/\哲学的な瞑想録で、子女の教育に当るものは、均しく興味を以て読むことができるであらう。
 最後の「十二人一首」は、氏が予て得意とせられる仏蘭西詩の翻訳中、多分会心の一ダースを収録されたものであらう。
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白き月
森に照り
枝ごとに
洩るゝ声あり
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 と、読み上げたゞけで、ヴエルレエヌの魂が自ら、氏の魂に蘇つてこの句を生んだとしか思へない。
 要するに、内藤氏は、専門家のノオト臭を離れて、文学を語り、文学に遊び得る大通の一人である。従つて、何等の予備知識なくしてこの一巻を繙くものにも、十分の理解と、それ以上の感銘が与へられるであらうし、一個の趣味の書として、近代の教養ある人々に悦び迎へられることを、私は固く信じるものである。



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「一橋新聞」
   1935(昭和10)年4月26日
初出:「一橋新聞」
   1935(昭和10)年4月26日
入力:tatsu
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