、「真情流露を逆に行く人物」として、後半が著しく好々爺になりすぎた。もう少し、ストイツクな半面が出せたら申分なかつたらうと思ふ。
 女中のアンネツト、婆やのオノリイヌ、共に、ルナアル的タイプであつた。
 総体に、「にんじん」が「好い子」になりすぎ、「ひねくれ」小僧の心理が描かれてゐない。従つて、原作のユウモアが薄らいで、人情味が眼立ちすぎる。殊に、「白《せりふ》」のわからぬ人には、ルナアルの機智が通じないであらう。
 タイトルは私が責任者のやうになつてゐるが、楽屋をぶちまけていゝなら、写真を見ないで「会話」の翻訳だけさせられたのだから、出来栄は御覧の通りだ。責任を逃れる気はないが、別に得意でもない。
 大した当て気もなく、しかも、これほど楽しんで観てゐられる映画は、自分との関係を離れて、さう滅多にないだらうと思ふ。



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「時事新報」
   1934(昭和9)年4月27日
初出:「時事新報」
   1934(昭和9)年4月27日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
青空文
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング