生が初めてその解題を與えて 遂に新派の基礎とする量子論の發端に緒を導いたのである。
 先生がベルリン大學に呼ばれた頃 實驗物理學者が腐心していた研究は 黒体が温度の上昇に從い輻射する光波の波長に關する測定であつた。いわゆる黒体なるものは何であるかは キルヒホツフが光の吸收と發散に關する論文に既に明示したから困難はなかつたが これを如何なる物質で造るかの問題が横たわつていた。辛うじてこれを征服して理論に移らんとすれば 更に難關を生じた。先生は講習においてキルヒホツフのスペクトル分析發表當時の論文を讀ませたが 先生も大いに研鑽していたのである。
 1900年に至り破天荒の著想を披瀝して學界を驚かし 初めて量子論の濫觴を開いた。從來エネルギは連續性を帶びると推定せられたが 先生の所説によれば 周波數 ν なる光波のエネルギは自然の恒數 h と ν を掛けた hν であつて 恰も通貨が錢位を單位としてその倍數で通用しているように 光波エネルギの單位即ち光量子は hν であるとすれば 輻射則を難なく解決できるを示し 遂にプランク黒体輻射則を發表して學界の蒙を啓いたのである。しかるに連續性を盲信し
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