だ一年限りの出生からは何らの正しい推論も引出し得ないけれども、しかし、これが論及された唯一の出生なのであるから、矛盾は明かである。おそらく今後の報告がこの難点を解決するであろうし、またその後の年の出生はもっと多いことであろうが、しかし私は、本文で述べた如くに、出生率の最大の増加は、第九年以前、おそらくは共和国が始って最初の六、七年の間、既婚者が軍籍から除かれていた頃のことであった、と考えたい。もしこの国民の農業部分の状態が革命によって改善されたとすれば、私は、出生率及び死亡率の両者が低減するものと確信せざるを得ない。フランスのような快適な気候の下においては、下層階級の極めて甚だしい窮乏のみが、ネッケルの云う如き三〇分の一という死亡率や二五・七五分の一という出生率を生じ得るであろう。従って、この仮定によれば、第九年の出生は不正確ではなく、そして将来は出生及び死亡は人口に対しそれほど高い比率にはならないかもしれない。この点に関するフランスと英蘭《イングランド》との相違は全く驚くべきものがある。
この著作のうち人口に関する部分は、この問題に関し大した知識なしに書かれたものである。その一記述の如きは極めて妙である。結婚の人口に対する比率は一対一一〇、出生のそれは一対二五と書かれているが、この事実から産児の四分の一が結婚まで生存すると推論されている。もしこの推論が正しいとすれば、フランスの人口はまもなく減退することであろう。
生命の価値を算定するに当って、この著者はビュフォンの表を採用しているが、これは主としてパリ周辺の村落から得られた記録簿を基礎としているものであって、全然不正確なものである。これは出生時における生命の蓋然率をわずかに八年強としているが、これは、都市と地方とを一緒にすれば、正しい平均に遥かに及ばざるものである。
この著作には、私が既に再三論及したプウシェの論文に載せてある細論に対し、特記に価するものはほとんど何も加えられていない。全体として、私は、本章における私の推論はおそらくは十分な根拠を欠くことであろうが、そのいずれをも変更すべき十分な理由を認めないのである。実際、革命中の実際の人間の喪失に関するサア・F・ディヴェルヌワの計算を採用するに当って、私はこれが事実によって支持されていると考えたことはない。しかし、読者は、それを私が採用したのは、それが厳密に正しいと考えたからであるよりはむしろ、例証のためであったことを、気附かれることであろう。(訳註――この註が最初に現われたのは第三版からである。ただし右の形で現われているのは第五―六版であり、第三―四版では、第一パラグラフの、『しかしこの計算は憲法議会の行った第一囘推算を基礎とするものと思われるが、これは後に至って過大なりとして排斥されたものである。』の一文はなく、またその少し後の、『総人口は三四、三七六、三一三に増加し』の次には、次の一文が挿入されていた。『そして第七年とほとんど同一数が旧フランスに属するものと想像され、』)
2)[#「2)」は縦中横] Essai de Peuchet, p. 28. この私生児出生の増加が、サア・フランシス・ディヴェルヌワが指摘しているように、かの恐るべき収容所たる育児院に異例の数の子供を遺棄せしめることになったのは、極めてありそうなことである。しかしおそらくこの残酷な慣習は特定の地方に限られ、そして遺棄されたものの数も、全体としては、出生総数に対しては、何ら大きな比率には上らなかったことであろう。
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サア・フランシス・ディヴェルヌワは曰く、『革命や戦争でどれだけ人が死んだかを調べることの出来る場所は戦場や病院だと思う者は、政治算術の第一原理をまだ知らないものである。それによって殺された者の数よりも、それによって今まで出生を阻まれ、また将来も阻まれるべき、子供の数の方が遥かに重要である。これこそがフランス人口の蒙った最大の痛手なのである。』また曰く、『死滅した男子総数の中《うち》、仮にわずか二百万が同数の女子と結婚したとすれば、ビュフォンの計算によると、この二百万の夫婦は、三十九歳で親と同数の子供を生み出すためには、一千二百万の子供を産まなければならぬこととなる。この見地からするならば、かかる人間の破壊の結果はほとんど測り知るべからざるものとなる。けだしそれは、フランスが哀惜している二百五十万という現実の損害よりも、それが一千二百万の子供の出生を阻んだ点において、遥かに大なる影響を与えたのであるからである。フランスがこの恐るべき傷痍がいかなるものであるかを覚《さと》るのは、遠い将来ではない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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1)[#「1)」は縦中横] Tableau
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