ら自身の個人的利害に影響するものとしてこれを十分明かに理解し、家族を養い得るという相応の見通しもなくして結婚すればおそらく自身に招くべき害悪に、十分気が附いているのを、私は見出した。これらの問題について広く行われている一般的観念から見れば、一般人をして、人口原理と、低廉な労賃及び貧困を生ずるその結果とを、理解せしめるのは、決して困難な仕事ではなかろう、と私は云いたい。
スイスには貧民のための絶対的備えはないけれども、各教区は一般に公共用の若干の領主権と土地財産とを所有しており、そしてそれ自身の貧民を養うものということになっている。しかしながらこの基金は限られているから、もちろんしばしば全く不十分となるであろう。そこで時々この目的のために義捐金募集が行われる。しかしこの金額は比較的僅少でありかつ不確実なので、英蘭《イングランド》の教区税と同一の悪結果は及ぼさない。近年、教区に属する共有地の多くが個人に分割されたが、これはもちろん、土壌を改良し人口を増加せしめる傾向があった。しかしその処理の仕方からして、それはおそらく余りにも組織的な結婚奨励たるの作用を演じ、そして貧民の数の増加に寄与したのである。最も富裕な村の附近に私はしばしば最多数の乞食を目撃した。
しかしながら、農業を促進せんとするベルン経済学会の努力は若干の成功を収め、国の資源の増大はより[#「より」に傍点]以上の人口を容れる余地を作り、そして近年生じた人口増加の、全部ではないとしても大部分に対して、適当な生活手段を提供した、と信ずべき理由がある。
一七六四年に、ベルン全州の人口は、ヴォー州を合せて、三三六、六八九であった。一七九一年にはそれが四一四、四二〇に増加していた。一七六四年ないし一七七七年には、その増加は毎年二、〇〇〇の割合で進む、一七七八年ないし一七九一年には毎年三、一〇九の割合で進んだ1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Beschreibung von Bern, vol. ii. p. 40.
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第六章 フランスにおける人口に対する妨げについて
革命前のフランスの教区記録簿(訳註1)は、特に慎重に記録されたわけでもなければ、特に長年月に亙って記録されたわけでもなく、また発表されたことのあるもので極めて異常な結果を示すものもほとんどないから、革命に伴った事情で大いに世を驚かした事情がなかったならば、私は何も特にこの国を特別の一章を設けて論じはしなかったであろう。その事情とは、かくも長期の破壊的の争乱の間死亡者が多かったにもかかわらず、人口が減少しなかったということである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] 本章は一八〇二年に書かれ、アミアンの平和以前のフランスの状態について述べているものである。(訳註――この註は第六版のみに現わる。)
〔訳註1〕『教区記録簿』は第二版では『死亡表』とある。
[#ここで字下げ終わり]
各県知事の報告にもとづいた大きな国家的著作が、現在パリである程度進んでおり、これが完成した暁には、統計学一般の資料に極めて貴重な寄与をなすものと期待して差支えないであろう。しかしながら全県知事の報告はなお完成していないが、その監督主任をしている人から、私は、フランスの旧領土の人口は革命中減少するよりはむしろ増加したことは、確実だということだけは、既にわかっている、と確言された。
かかることは、もし本当であるとすれば、極めて有力の本書の一般原理を確証するものである。そして差当りこれを事実と見るならば、かかる事柄とどのようにして起り得たかをやや詳細に辿ることは、この問題に若干の光明を投ずることとなろう。
あらゆる国には、常に、年々青春期に達する人間の中《うち》、年々結婚する者の数以上に出ずる超過が、徐々として蓄積されて、出来上る、未婚者のかなりの一団がある。この一団がそれ以上の蓄積を停止するのは、この一団の数が、年死亡がその増加と等しくなるほどに、なったときのことである。ヴォー州では、前章に明かな如くに、事実上結婚していない寡婦鰥夫を含んでこの一団は、既婚者の総数と等しい。しかし、死亡率も結婚への傾向もスイスより遥かに大なるフランスの如き国では、この一団は総人口に対してそれほど大きな比率をなしていない。
プウシェ氏がパリで一八〇〇年に著わした『一般統計論』〔Essai d'une Statistique Ge'ne'rale〕 の中のある計算によれば、フランスにおける一八歳ないし五〇歳の未婚男子数は一、四五一、〇六三であり、同じ年齢の未婚既婚を問わず男子の総数は五、〇〇〇、
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