それは第三版でそのまま踏襲されたが、第四版でかなりの訂正を加えられ、更に第六版でその上に加筆が行われて、この形となったものである。しかし内容上の変化があるわけではない。
[#ここで字下げ終わり]
 上述の如く予防的妨げが極めて著しく行われている国に対し通常以上の移住の精神が働くならば、人口減退に関するかくも一般的な叫声がある時期にすら、これが人口増加に対する一時的妨げを生み出し得たということは、ありそうもないことではあるが、しかし可能ではある。もしそうであるとすれば、それは疑いもなく下層階級の人民の境遇の改善に貢献をしたのである。この時期の直後に、スイスを旅行した外国人はすべて、いずれもスイスの農民の状態が他国のそれよりもよいことに、気附いている。私は、最近のスイス旅行で、それが話で聞いたほどよくないのを見て、いささか失望した。この不幸な変化の大部分は、最近の擾乱中の人民の喪失と苦難とに帰するのが正しいであろう。しかし一部分はおそらく、人口を増加せんとする各政府の誤れる努力と、また指導が誤らずかつ一時的には人民の愉楽と幸福を増進することになる努力の、最終的帰結とに、帰すべきであろう。
 私はユラ地方のジュウ湖に旅行した時、右の最後の種類の結果を見て、大いに打たれたことがある。吾々の一行が湖の隅の小さな宿屋に著《つ》くや否や、そこの女将は附近の全教区の貧困と窮乏を訴え始めた。彼女は曰う、国の産物は少いのに、住民は充ち満ちている。また学校へ通うべき年頃の少年少女は結婚する。この早婚の習慣がつづく間は彼らは常に悲惨な生活をすべきである、と。
 吾々を後にオルベ河の水源へと案内してくれた農夫は、この問題をもっと立入って論じ、私が今まで出会ったことのある誰にも劣らぬほど人口原理を理解しているように思われた。彼は曰う、女は子供をたくさん産み、山の空気は極めて清く健康的なので、絶対的欠乏の結果死ぬ者の外は子供はほとんど全く死なない。土地は痩せているので、毎年成人する人間に職業と食物を与えるには足りない。労賃はその結果として非常に低く、一家をちゃんと養っていくには全く足りない。しかし社会の大部分の窮乏と餓えに瀕する生活も、他人のための警告とはならず、彼らは引続き結婚をし、自分で養うことの出来ないたくさんの子供を産みつづけている、と。この早婚の習慣は実際地方の悪習[#「地方の悪習」に傍点]と呼ぶべきものである、と彼は云い、そして彼はその結果として生じなければならぬ必然的不可避的な不幸を痛感するの余り、男子が四十歳まで結婚することを禁じ、そして四十歳になった時には、六人や八人も子供を産まないで、二人か三人しか産まない『老嬢[#「老嬢」に傍点]』とだけ結婚を許す法律が、制定さるべきである、と考えているのである。
 私は、彼がこの問題を論じた真面目さ、ことにその結論の提案には、感心せざるを得なかった。彼は過剰人口から起る窮乏を非常に強く目に見、体験したからこそ、かかる過激な救治策を提案したのに違いない。訊ねてみたら、彼自身非常に早婚をしたことがわかった。
 この問題に関する理論的知識の点で、彼が誤を犯した唯一の点は、その推理を余りにも不毛な山勝《やまがち》な地方に限定しすぎ、それを平野にまで及ぼさなかったことにあった。おそらく彼は、肥沃な所では、穀物や仕事が豊富なので、この困難は除去され、そして早婚が許される、と考えたのであろう。平野にそれほど住んだことがないので、彼がこの誤に陥ったのは当然であった。ことにこの平野では、この難点は、啻に問題の範囲が広汎であるため、いっそう隠蔽されるばかりでなく、また実際にも低湿地や都市や工場により当然に生ずるより[#「より」に傍点]高い死亡率によって、より[#「より」に傍点]小さくなっているのである。
 彼がその国の優越的悪習と名づけたところのものの主たる原因について質問したところ、彼は理論的に非常に正確にそれを説明した。彼は曰う、石磨き工業が数年前に始まり、これは一時繁昌を極め、附近全体に高い労賃と職業を与えた。家族を養う便宜と子供達に早くから職業を見出すの便宜とは、早婚を大いに奨励した。そしてこの習慣は継続していったが、そこへ流行の変化や偶発事やその他の原因が起って、この工業はほとんど駄目になってしまった、と。彼はまた、近年非常に大きな移民が行われているが、しかしこの増殖法が極めて迅速に進むので、移住も国の過剰人口を解決するに足らず、その結果は彼が私に述べた如き、また私も一部分は目撃した如き、状態となったのである、と述べた。
 その他、スイス及びサヴォイの諸地方の下層社会の者と話したときにも、その多くの者は、ジュウ湖の友人の如くに人口原理が社会に与える影響を理解するほどこれに精通してはいなかったけれども、しかも彼
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