Id.
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 彼は曰く、『子供が嬰児期の危険から最もよく免かれ、また、いかなる計算法によって計算してみても、平均寿命が他国よりも高い国こそが、まさに、出産性が最小であるというのは、何に由来するのであろうか。また我国の一切の教区の中で、最高の平均寿命を与える教区が、増加傾向の最小なる教区だというのは、どうしてであろうか。
『この問題を解くために、私は次の推測を、だがほんの推測として挙げてみたい。これは、あらゆる場所において適当な人口の均衡を維持せんがため、神は賢明にも、各国において生命力がその増殖力と反比例を保つように、事物を調整したのではなかろうか1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 48 et seq.
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『事実上、経験は私の推測を確証する。アルプス山脈中レエザンという村は、人口が四〇〇であるが、その出生は一年わずか八人ほどである。ヴォー州は大体同一人口に対し一一人、リヨン州では一六人である。しかし、二〇歳になると、この八、一一、一六という数字が同じ数になってしまうのだとすれば、ある場所で生命力が与えるところのものを、他の場所では増殖力が与えることが、わかるであろう。かくて最も健康的な国も、増殖力が少いために、人口過剰とはならず、また不健康な国はその異常な増殖力によって、その人口を保つことが出来るであろう。』
 ミウレ氏が、記録簿から、最も健康な人民は最も増殖力が小であることを見出したときの驚きがどんなであったかは、彼がこれを説明するために奇蹟に頼っていることで、判断することが出来よう。しかし、この場合において、解決が困難だからといって、このような推測に頼らなければならぬ必要は少しもない。この事実は、婦人の出産性はその健康性と反比例的に変動するというような奇妙な仮定に頼らなくとも、説明し得よう。
 各国の健康性には確かに大きな差異があり、それは部分的には土壌及び位置から生じ、また部分的には人民の習慣及び職業から生ずるものである。これらの原因、または何であろうとその他の原因により、大きな死亡率が生ずる時には、それに比例する数の出生がすぐその後から生ずるものであり、これは労働に対する需要の増加による年結婚数の増加と、より[#「より」に傍点]若く従って当然より[#「より」に傍点]多産的な年齢に結婚が行われる各結婚の出産性の増大との、両者によるものである。
 これに反し、反対の原因によりある国または教区の健康性が著しく大である時には、もし人民の習慣により、過剰人口の吐け口として移民が行われないならば、やがて予防的妨げの絶対的必要が極めて強く人民の注意に迫り、ために彼らはこれを採用せざるを得なくなり、もしこれを採用しなければ餓死するということになるであろう。従って結婚は極めて晩婚となるので、啻に年々の結婚数が全人口に対比して小となるばかりでなく、また各個々の結婚の生殖力も当然に小となるであろう。
 ミウレ氏が言及しているレエザンの教区においては、これら一切の事情がなみならぬ程度で共存していたように思われる。その位置はアルプス山脈に位しているが、しかし高過ぎることはないから、おそらく空気は最も清浄で衛生的であった。そして人民の職業は、全部牧畜であったから、従って最も健康的なものであった。ミウレ氏の計算の正確なことはこれを疑うことが出来ないが、それによれば、この教区における生命蓋然率は、六一年というが如き異常な高さにあったことがわかる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そして平均出生数が三〇年に亙りほとんど正確に死亡数と等しかったという事実は2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、人民の習慣上移住が行われず、そしてこの教区の人口を支持すべき資源がほとんど停止していたことを、明かに立証するものであった。従って吾々は、牧場は限られており、量においても質においても容易には増大し得なかったであろう、と断言することが出来る。そこで飼育し得る家畜の数はもちろん、同様にまたこれら家畜の世話に必要な人間の数も、限られていたことであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. table v. p. 64.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. table i. p. 15.
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 かかる事情の下においては、青年期に達した若者は、誰かが死んで、牧人か搾乳者かその他類似の職業が空席となるまでは、その父の家を去って結婚することはどうして出来ようか。そして、人民の健康が非常によいのでこうしたことはなかなか起らぬに違いないから、彼らの大多数は、その青年期の大部分を独身で暮らさなければならず、しから
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