字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 274.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 275.
[#ここで字下げ終わり]
これが起原となっていると思われている一大祭典が、毎年あらゆる支那の都市で、太陽が宝瓶の十五度に入る日に、厳かに行われるが、支那人はこの日をもって立春としている。皇帝は、自らの手本によって農民を鼓舞せんがために自ら臨御し、荘重に数歩の土地を耕作する。そしてあらゆる都市の宦官は同一の儀式を行う1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。皇族やその他の顕紳は皇帝に倣って鋤をとるのであるが、この儀式の前には春の犠牲が捧げられ、これは皇帝が祭主としてその人民のために豊富な収穫を得んがために上帝に捧げるのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 275.
[#ここで字下げ終わり]
デュアルドの時代に統治した皇帝は、非常に荘厳にこの祭典を行い、また他の点で農民に対する異常な配慮を示した。彼らの労働を奨励するために、彼はすべての都市の総督に命じて、各自の管轄内で農業に従事する者で、農業に熱心で、立派な評判をもち、一家が和合し、隣人と相和し、節倹を旨とし、一切の浪費をしないという点で最もすぐれた者を、毎年皇帝に報告させることとした1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。宦官は各自の州において、勤勉な耕作者を表彰し、また士地を放置する者を譴責したのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 276.
2)[#「2)」は縦中横] Lettres Edif. tom. xix. p. 132.
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政治の全部が家長的性質をもち、そして皇帝が人民の父及び教化の源泉として尊敬される国においては、農業に払われるこれらの尊敬は有力な効果をもっと考えて差支えない。階級の順位においては、農民は商人または工人の上に置かれている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そして下層階級のものの野心の大目的は、一片の土地を所有するようになることである。支那では、製造業者の数は、農民の数に比較して極めて小である2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そして極小の例外を除いて、この帝国の全表面は、人間の食物の生産のみに当てられている。牧草地は全くなく、また牧揚は極めて少ない。そして、いかなる種類の家畜にしろ、家畜を養うための燕麦《えんばく》や豆や蕪菁《かぶ》を作っている畑もない。道路にとられる土地はほとんどなく、道路は数が少なく、また狭く、主たる交通は水路によっている。共有地もなければ、また大地主の怠慢や気迷や遊猟のために荒蕪に委ねられている土地もない。耕作し得る土地で休耕地となっているものはない。土壌は、熱い恵みの太陽の下で、大抵二毛作が出来る。これは土壌[#「壌」は底本では「譲」]に改良を加え、また客土、施肥、灌漑、及びあらゆる周到適切な勤労によって土壌の欠陥を補う結果である。富者や権力者の奢侈に奉仕し、または何の実益もない仕事に従事するために、人間の労働が農業からそらされることはほとんどない。支那軍の兵士ですら、短期間の衛兵服務と訓練その他時折の任務の時の外は、大抵農業に従事する。生活資料の分量は、また、他国では通常用いないような動物や植物を食物に充てることによっても、増加されるのである3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Duhalde's China, vol. i. p. 272.
2)[#「2)」は縦中横] Embassy to China, Staunton, vol. ii. p. 544.
3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 545.
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サア・ジョオジ・スタウントンが与えている以上の記述は、デュアルドや他のジェスイット僧によって確認されているが、彼らはいずれも、土地の施肥、耕耘、灌漑に当っての支那人の倦まざる勤勉と、人間の莫大な生活資料を生産する上での彼らの成功とを、叙説する点で、一致している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。かかる農業制度が人口に及ぼす影響は明白でなければならない。
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1)[#「1)」は縦中横] Duhalde, chapter on Agriculture, vol. i. p. 272 ; chapter on Plenty, p. 314.
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最後に、結婚に対し与えられている著しい奨励があるが、これは、国の莫大な生産物を極めて少額に分割するという結果をもたらし、またその結果として、支那をして、世界中の他のいずれの国よりも、その生活資料に比例して人口稠密な国たらしめているのである。
支那人は結婚に二つの目的を認めている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。第一は先祖の祭りを絶やさないということであり、第二は種の増殖である。デュアルドは、両親に対する子供の尊敬と服従とはその政治の大原則であるが、これは死後にまでも続くものであり、この義務はあたかも生ける人に対する如くに行われる、と云っている。かかる原理の結果として、父親は、その子供を全部結婚させてしまわないと、一種の不名誉を感じ心安からず思うのである。そして兄は、父から何も相続しなくとも、弟妹を養いこれを結婚させなければならぬのであるが、これは、もって家が廃絶し祖先がその子孫から当然受くべき尊敬と奉仕を受け得なくなるのを、避けんがためである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Lettres Edif. et Curieuses, tom. xxiii. p. 448.
2)[#「2)」は縦中横] Duhalde's China, vol. i. p. 303.
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サア・ジョオジ・スタウントンは、何事であれ強力に推奨され一般に実行されるものは、遂には一種の宗教的義務として考えられるに至るものであり、従って支那では、将来の家族を養う見込みが少しでもありさえすれば、結婚はかかる宗教的義務として常に行われる、と述べている。しかしながら、この見込みは常に必ずしも実現されず、その場合には、子供はそのあわれな両親に遺棄される1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし両親が子供をかくの如く遺棄することを許されるという事実ですらが、疑いもなく、結婚を容易にし人口増加を奨励する傾向をもつこととなるのである。すなわちこの最後の手段が前もって考慮に入っているから、結婚することはそれほど恐れられていないし、そして親たるの感情が働くので、常に、最もひどい必要に迫られた場合を除き、かかる手段は避けることとなるであろう。その上、子供達特に息子達はその両親を養う義務があるのであるから2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、貧乏人にとっては結婚は慎慮に発する手段なのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Embassy to China, vol. ii. p. 157.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 157.
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結婚に対するかかる奨励の結果として、富者の間では、財産が分割されることとなるが、これはそれ自身として人口を増殖させる有力な傾向を有っている。支那においては、人々の地位の不平等よりも財産の不平等の方が少い。代々の父親がその息子達に平等に財産を分って遺贈するので、土地所有の分割は極めて適度である。死んだ両親の全財産をただ一人の息子が相続するようなことは、ほとんど全くない。そして早婚が一般に行われているので、この財産が傍系相続により増加するということは余りない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。これらの原因は絶えず富を均等化する傾向をもつ。従って、自分自身それを増加するために少しも努力しなくてもよいほどの富の蓄積を相続するものはほとんどない。支那人の間では、三代以上も同じ家で大きな財産が続くことは滅多にない、とよく云われている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 151.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 152.
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結婚の奨励が貧民に対し及ぼす結果は、労働の報酬を能う限り低くしておき、従って彼らを極度の赤貧状態に圧迫抑止するということ、これである。サア・ジョオジ・スタウントンは、労働の価格は一般に、食料品の価格に対し、どこにおいても、普通人が耐え得る最小限度であり、そして、食堂の兵士の如くに大家族をなして一緒に暮すことから利益を得、またかかる食堂が[#「が」は底本では「か」]経営に最大の節約を実行しているにもかかわらず、彼らは植物性食物をとるだけで、何らかの動物性食物は極めて稀れでありかつ少量である、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 156.
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デュアルドは、支那人の悲痛な勤勉と、彼らが生活資料獲得のために頼るところの、他国には知られぬ諸々の工風考案を記述した後、曰く、『しかし、支那住民の非常な真摯と勤勉とにもかかわらず、彼らの中の莫大の数の者がひどく窮乏に苦しんでいることを、告白しなければならぬ。彼らの中のある者は、貧しくてその子供に普通の必要品を与えることが出来ないので、これを街頭に遺棄する。』………『北京や広東の如き大都市においては、この恐るべき光景は日常のことである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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1)[#「1)」は縦中横] Duhalde's China, vol. i. p. 277.
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ジェスイット僧プレマアルは同教団の一友に書簡を送って曰く、『私はあなたに、逆説的に見えるかもしれないが、絶対に真実な、一つの事実を告げよう。それは、世界中で最も富み最も繁栄せるこの帝国は、ある意味においては、あらゆる国々の中で最も貧しい最も惨めな国である、ということこれである。この国は、いかに面積が大で肥沃であるにしろ、その住民を養うに足りない。彼らを安楽にするには、四倍の領土が必要であろう。広東だけでも、誇張なしに、百万以上の人間が居り、また三、四リイグを距《へだ》てた一都市にはこれ以上の人間がいる。しからば誰がこの省の住民を数え得ようか。しかし、そのいずれもが同じくらいの人口を有つ十五大省を包含する全帝国に比すれば、これくらいが何であろうか。かかる計算はそもそも幾何に達するであろうか。しかもこの限りない人口の三分の一は、適当に生きて行けるだけの米をほとんど見出し得ないであろう。
『極度の窮乏が人民を駆って最も恐るべき蛮行に走らせることは周知の事実である。支那にあって事物を綿密に検討する観察者にとっては、母親がその子供を殺したり遺棄したりし、両親がわずかの金でその娘を売り、また人々は利己的で、盗賊の数は多いという事実を見ても、驚きはしないであろう。驚くことはむしろ、これ以上更に恐るべきことが起らず、そして、この国では非常に頻々と起る飢饉の時に、数百万の人間が、吾々がヨオロッパ史上で実例を見るような恐るべき蛮行に訴えることなく、餓死して行く、という事実である。
『ヨオロッパにおける如くに、貧民は怠惰なのであって、働きさえすれば生活資料が得られるのだ、とは支那では云い得ない。これらの貧民の労働と努力とは想像に絶する。支那人は、時には膝まで水に入って、土を掘り、そして晩には小匙一杯の米を食い、またそれを煮た不味い水を飲んで、喜んでいる。これが一般に彼らが食う全部である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)
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