_と、それに関する計算とは、疑いもなく誤っている。死亡率の高い期間と期間との中間期における人口増加は、おそらく彼が気がついているよりも大であろう。同時にまた、農民の勤労がその必要な欲望の充足だけに限られており、農民は単に餓死を免れるためにのみ播種し、そして何らの剰余生産物をも蓄積し得ないような国においては、人民の大きな喪失は容易には恢復されるものではなく、けだし人口の減少より生ずる自然的結果は、勤労が栄え財産が安固な国におけると同じ程度には、感ぜられ得るものではないから、ということも、述べておかなければならぬ。
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 1)[#「1)」は縦中横] Eton's Turkish Emp. c. vii. p. 291.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 280.
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 ペルシアの立法者ゾロアスタアによれば、樹木を植え、畑を耕し、子供を産むのは、讃《ほ》むべき行為である。しかし旅行家の記述からすれば、下層階級の者の多くは、この後に挙げた種類の名誉は容易には得られそうもないようである。そしてこの場合は、他の無数の場合と同様に、個人の私的利害が立法者の誤謬を是正する。サア・ジォン・チャアディンは、ペルシアにおいては結婚は非常に金がかかり、従って財産家のほかは破産をおそれて、結婚をあえてしない、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ロシアの旅行者もこの記述を確証するかの如くであり、すなわち、下層楷級のものは結婚をおそくまで延期せざるを得ず、また早婚が行われるのは富者の間だけである、と云っている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Sir John Chardin's Travels, Harris's Collect. b. iii. c. ii. p. 870.
 2)[#「2)」は縦中横] 〔De'couv. Russ. tom. ii. p. 293.〕
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 ペルシアが数百年もの間不断に悩まされている恐るべき動乱は、この国の農業に対し致命的であったに違いない。外戦と内乱から免れた期間は短くその数は少なかった。そして申し分のない平和な時期においてすら、辺境諸州は絶えず韃靼人の蹂躪に身を委ねていたのである。
 かかる事態の結果は予期し得る通りである。ペルシアにおける未耕地の耕地に対する比例は十対一であるとサア・ジォン・チャアディンは云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ペルシア王の官吏及び私的所有者がその土地を農民に貸出す仕方は、最もよく勤労を鼓舞するが如きものではない。ペルシアの穀作はまた、降雹、旱魃、及び蝗その他の虫害によって駄目になることが非常に多いが、このことはおそらく、むしろ土壌の耕作に資本を用いることを妨げる傾向があるであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Chardin's Travels, Harris's Collect. b. iii. c. ii. p. 902.
 2)[#「2)」は縦中横] Id.
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 疫病《ペスト》はペルシアには及んでいない。しかしロシアの旅行者の云うところによれば、天然痘が著しく蔓延しているという1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] 〔De'couv. Russ. tom. ii. p. 377.〕
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 ペルシアにおける人口に対する妨げについてこれ以上詳しく述べる必要はなかろう。けだしそれはいまトルコ領のところで述べたものとほとんど等しいように思われるからである。トルコにおける疫病《ペスト》の優勢な破壊力と対照するものは、おそらく、ペルシアにおいては内乱がより[#「より」に傍点]頻々と起るということであろう。
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    第十一章 印度及び西蔵における人口に対する妨げについて

 サア・ウィリアム・ジォウンズが飜訳し『ヒンズウ法典』と名づけた印度の立法者マヌウの法典では、結婚は非常に奨励されており、そして男系相続人は第一の重要性を有つものとされている。
『息子によって人は万人に勝を占める。息子の息子によって人は不死を享受する。そして後、かの孫の息子によって人は天に達する。』
『息子はその父をプトと名づける地獄から救い出す故に、梵天自身によりプトラと呼ばれた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Sir William Jones's Works, vol. iii. c. ix. p. 354. レイナル僧正はインドの法律を論じて曰く、『人口増加は原始的義務であり、結婚を便ならしめるためには欺瞞し虚言し偽誓することさえ法が認めるほど神聖なる自然の秩序である。』Hist. des Indes, tom. i. l. i. p. 81. 8vo. 10 vols. Paris, 1795.
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 種々異る婚礼につき、マヌウはその各々に特定の品等を与えている。
『ブラアミイすなわち第一位の婚礼による妻の息子は、徳行をなせば、十人の祖先、十人の子孫、及び二十一人目たる自己を、罪障から贖う。』
『ダイバの婚礼による妻から生れた息子は、尊族卑族各七人を贖い、アルシャの婚礼による妻の息子は各三人を、プラアジャアパチャの婚礼による妻の息子は、各六人を、贖う1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Sir Wm. Jones's Works, vol. iii. c. iii. p. 124.
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 家政者は最優位にあるものとされている。『聖者、霊魂、神々、妖精、及び賓客は、家長のために福祉を祈る1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』弟よりも以前に結婚しなかった兄は、特に忌むべき人間として述べられている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 130.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 141.
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 かかる法令は当然に、結婚を宗教的義務として考えせしめるであろう。しかもかくも熱望されている目的物たるものは、多数の子孫たるよりはむしろ男系相続者の継続であるように思われる。
『一人の息子を産んだ父は自身の祖先に対する負債を弁済する。』
『その出生により父が負債を弁済し、またそれを通して父が不死を得る息子のみが、義務の観念より生れたるものである。残余の一切は、賢人によって、快楽の愛好より生れたるものと看なされる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. ix. p. 340.
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 寡婦は、ある場合には、死んだ夫の兄弟またはある指定された親族によって、一人の息子を産むことは許されるが、しかしいかなることがあっても二番目は許されない。『指定の第一の目的が法に基づいて達せられれば、この兄と妹は父と娘の如くに睦じく共棲しなけれぱならぬ1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 343.
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 マヌウの法典のほとんどあらゆるところで、あらゆる種類の肉欲満足は力強く排斥されており、そして貞節は宗教的義務として訓《おし》えられている。
『人は肉欲的快楽に愛着すれば罪過を招き、これを全く克服すれば天の悦楽を得る。』
『いかなる人がこれら一切の満足を獲得するにせよ、またいかなる人がそれを全く抛棄するにせよ、一切の快楽の抛棄はその獲得よりも遥かに善い1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. ii. p. 96.
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 かかる章句はある程度、前述せる増加に対する奨励を打消す傾きがあり、そして若干の宗教心の厚い人をして、一人の息子をもてばそれ以上に耽溺を控えさせ、またはかかる法令のない場合よりも喜んで未婚の状態に止まらしめるものと、考えてよい。厳格な絶対的な貞節は、実際、子孫を持つという義務に打克つように思われる。
『無数の婆羅門は、幼時から肉欲を避け、その家族に一人の子供も残さなかったが、しかも彼らは天国へ昇った。』
『しかしてかかる禁欲男子と同様に、有徳の妻は、子供がなくとも、主人の死後敬虔な厳粛に身を捧けるときは、天国に昇る1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. c. v. p. 221.
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 兄弟または他の親族が死んだ夫のために相続人を設けることが許されると前に述べたが、これはただ奴隷階級の女子にだけ行われることである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。上流階級の女子は、他の男の名を口にすることさえ出来ぬばかりでなく、『死があらゆる罪障を恕《ゆる》すまで、辛い義務を履行し、あらゆる肉欲的快楽を避け、かつ悦んで比類なき道徳律を実践しなければならぬ2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. c. ix. p. 343.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. c. v. p. 221.
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 情欲の統御に関するかかる厳格な教義の外に、なお他の事情が、おそらく、結婚を奨励する律令が十分にその効果を挙げることを、妨げているのであろう。
 人民は階級に分たれており、同山家族は同一職業を世襲するので、この事情は各個人に、生計に関する将来の見通しを明白に指示することとなり、そして父の収益から見て、同じ職業で家族を養っていけるか否かを容易に判断し得ることであろう。そして彼れの階級に適する職業で生活が出来ない時には、ある制限の下で、他の職業に生活を求めることは許されているが、しかしこの便法に頼る時にはある種の恥辱が伴うように思われる。そして、かくの如くにその階級から脱落し、このようにはっきりとその生活条件を低下しなければならぬことが確実にわかっていながら、なおかつ多数のものが結婚するとは、考えられぬことである。
 これに加うるに、妻の選択は非常に困難な点であるように思われる。男子はかなりの間未婚でいなければ、立法者が規定しているような伴侶がなかなか見附からぬであろう。ある種類の家族は、それがいかに豪家であっても、またいかに牝牛や、山羊や、羊や、金や、穀物に富んでいようとも、努めてこれを避けなければならぬ。髪が少なすぎるかまたは多すぎる娘、おしゃべりのすぎる娘は、いずれも排斥される。そして選択が必然的に、『その姿体に欠点がなく、良い名前をもち、フェニコプテロスまたは若仔象のように優雅に歩み、髪や歯は量から云っても形から云っても適度であり、体躯は何とも云えず柔軟な1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]』娘に落附かなけれぱならぬというのであってみれば、この選択はある程度の制限を受けることがわかるであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. iii. p. 120.
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 適当な配偶者を見出すに最大の困難がある時ですら、奴隷階級の女子が婆羅門またはチャトリアの妻として挙げられたことは、どんな昔の物語にも載っていないと記されているが、これはかかる困難が時々起ることを意味するように思われる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 121.[#「.」は底本では欠落]
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