を養う困難の増加によってある妨げを蒙ったであろうから、労働に対する需要は、一定の期間後には、供給に比例して大となり、そしてその価格は、その自然的水準に帰着するに委ねられるならば、もちろん騰貴するであろう。かくの如くして、労働の労賃は、従ってまた社会の下層階級の境遇は、労働の価格が名目上は少しも下落しなかろうとも、進転逆転の運動をすることであろう(訳註2)。
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 1)[#「1)」は縦中横] もし年々市場に投じ込まれる新らしい労働者が、農業以外に雇傭口を見出さないならば、彼らの競争は労働の貨幣価格を下落せしめて、もって、人口の増加がより[#「より」に傍点]以上の穀物に対する有効需要をもたらすのを、妨げるに至るであろう。換言すれば、もし地主及び農業者が、彼らが生産し得る生産物の追加分と引替えに単に農業労働量の追加しか得られないならば、彼らはこれを生産しようとは企てないであろう(訳註――この註は第五版より現る)。
〔訳註1〕『このことは実際……騰貴せしめるであろう。』は第五版より現る。
〔訳註2〕ここの所には第一版からのかなりの訂正削除がある。第一版では次の如し、――
『労働の名目価格が普遍的に下落するというのはごく稀である。しかし、食料品の名目価格が徐々として増加して来ているのに労働の名目価格がしばしば依然同一であるという風な場合を、吾々はよく知っている。これは実際上労働の価格の真実下落であり、そしてこの期間中は、社会の下層階級の境遇は徐々としてますます悪化して行かなければならぬ。しかし農業者と資本家とは労働の真実低廉によって富んで行く。彼の資本の増加によって前よりも多くの人手を雇傭することが出来るようになる。従って仕事は多くなり、その結果として労働の価格は騰貴するはずである。しかし、教会法のあるためか、または富者は団結し易いが貧民はそれが困難であるというもっと一般的な原因かのために、多かれ少なかれどの社会にもある、労働市場における自由の欠除のために、おそらく凶作の年が起り、叫声は余りにも声高となり必要は余りにも明かとなってもはや抗し得なくなるまでは、労働の価格は右の当然騰貴すべき時期にも騰貴せず、その上しばらくの間依然として低いままになっているのである。
『かくして労働の価格騰貴の原因は隠蔽される。そして富者は、その騰貴を許したのは、凶作のことを考えて憐憫と恩恵から行ったことだとする。そして豊作の年がまた来るとその価格が再び下落しないという最も不合理な不平を並べ立てる。しかし彼等が少しでも考えてみたら、彼等自身の不正な陰謀がなければそれは遥か以前に騰貴していなければならなかったはずであることが、わかることであろう。
『しかし富者が不正な団結をしてしばしば貧民の困窮を長びかせるに役立っているとはいえ、しかもいかなる形の社会でも、不平等の社会では人類の大部分にまた万人が平等の社会では万人に及ぼすところの、窮乏のほとんど不断の作用を妨げることは出来ないであろう。』
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 規則的な労働の価格の存在しない蒙昧社会にも、同様な擺動が起ったことはほとんど疑い得ない。人口がほとんど食物の極限まで増加した時には、すべての予防的及び積極的妨げが当然にその働く力を増加する。性に関する悪習はいっそう一般的となり、子供の遺棄はその頻度を増し、そして戦争と伝染病の機会と惨禍とは著しく増大するであろう。そしてこれらの原因は、おそらく、人口が食物の水準以下に低下するまで、その作用を続けるであろう。そしてその時には、食物が比較的豊富になるので人口増加が再び始まり、そして一定期間後、そのより[#「より」に傍点]以上の増加はまたも同一の原因によって妨げられるであろう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] サア・ジェイムズ・スチュワアトは、極めて適切にも、蕃殖力を、可変的な重りを載せられた発条に喩えているが(Polit. Econ. vol. i. b. i. c. 4, p. 20.)これはもちろん上述したと全く同種の擺動を生ずるであろう。彼は、その『経済学』の第一篇において、人口問題の多くの部分を極めてよく説明している。
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 しかし、種々なる国におけるかかる進転逆転の運動を確証するためには、明かに吾々が所有しているよりも詳細な歴史が必要なのであり、また文明の進歩は当然にこの運動を緩和する傾向があるものであるが、吾々はここではこの運動を確証しようとは試みず、ただ次の命題を証明しようと思う、――
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一、人口は必然的に生活資料によって制限される。
二、人口は、ある極めて有力にして顕著なる妨げにより阻止されぬ限
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