Bそして地球全体はこの点では島嶼と同様である。しかし、島嶼における人口の限界は、特にその面積が小さい時には、極めて狭くかつはっきりしているので、誰でもこれを眼にし承認しなければならないから、最も確かな記録がある島嶼の人口に対する妨げに関する研究は、現下の問題を極めてよく例証する傾《かたむき》があろう。ニュウ・オランダの稀薄に散在している蒙昧人について、キャプテン・クックの第一航海記の中で問われている疑問、すなわち『いかなる仕方で、この国の住民はそれが養い得るだけの数に減らされるのか2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、』という疑問は、南洋における最も人口稠密な島々、またはヨオロッパ及びアジアにおける最も人口の多い国々についても、等しく正当に発せられうる疑問である。この疑問を一般的に適用すれば、それは私に非常に興味あるものに思われ、そして人間社会の歴史上最も曖昧な、しかしながら最も重要な問題の闡明《せんめい》へと、導くように思われる。かくの如く一般的に適用されたこの疑問に答えるための努力なのだというのが、本書の最初の部分の目標を最も簡単明瞭に現わした言葉なのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Raynal, Histoire des Indes, vol. ii. liv. iii. p. 3. 10 vols. 8vo. 1795.
2)[#「2)」は縦中横] Cook's First Voyage, vol. iii. p. 240. 4to.
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ニュウ・ギニア、ニュウ・ブリテン、ニュウ・カレドニア、及びニュウ・ヘブリデス諸島というような大きな島については、確実にはほとんど何事も知られていない。そこにおける社会状態は、おそらく、アメリカの蒙昧民族の多くの間にあるものと、極めて類似していることであろう。そこには、互いに頻々と闘っている多数の異る種族が住んでいるように思われる。酋長はほとんど権力をもたず、従って私有財産は不安固であるため、食糧はそこでは滅多に豊富ではない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ニュウ・ジイランドの大島については吾々はこれよりはよく知っているが、しかしそれはその住民らの社会状態につき快い印象を与えるが如きものではない。キャプテン・クックが三つの異なれる航海記の中でえがいている描写は、人性の歴史において遭遇する最も暗い影を蔵している。これら人民の各種族が互いに絶えず闘っている闘争は、アメリカのいかなる地方の蒙昧人の場合よりもいっそう顕著である2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。そして食人という彼らの習慣、及び彼らがこの種の食物を愛しさえしていることは、疑問の余地なきほどにはっきりしている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。キャプテン・クックは、蒙昧生活の罪悪を誇張する傾向は少しもないのであるが、それでさえ、クウィーン・シャアロット・サウンドの近隣の土人について、次の如く曰う、
『もし私が、吾々のすべての自称友人の忠言に耳を傾けていたならば、私は全種族を絶滅させたことであろう。けだし各村々の土人は、代る代る私に他の村を滅ぼすことを頼んだからである。このあわれな人民がこれほど分裂生活をしている実証を聞いても、人はこれをほとんどありえないことと思うであろう4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。』また同じ章の先の方で曰く、『私自身の観察と、タウェイハルウアの話からすれば、ニュウ・ジイランドの土人は互いに殺されはしないかという絶えざる不安の中に生きているに違いない、と私には思われる。彼らの考えるところによれば、ある他の種族から被害を受けたことはないと考える種族はほとんどないのであり、ために彼らは絶えず復讐をしようと見張っている。そしておそらく、人肉の御馳走にあずかりたいという欲望も、少なからぬ刺戟となっていることであろう。……彼らがその恐るべき計画を遂行する方法は、夜中ひそかに敵を襲うことである。そしてもし敵が警戒を怠っているのを見ると(しかしこれは滅多にないことと信ずるが)、彼らはあらゆるものを無差別に殺し、女や子供でも見逃さない。殺戮が終ると、彼らはその場で祝宴を催してたらふく食うか、または死骸を出来るだけ数多く運び去り、家でそれを言葉で現わせぬほど残忍な仕方で食う。……助命したり捕虜にするということは軍律にはなく、従って敗北者は逃げる以外に助かる方法はない。この不断の戦争状態と破壊的戦闘方法とは、習慣的な警戒を生ぜしめる極めて有力な作用をするのであり、従って、昼といわず夜といわず、ニュウ・ジイランド土人が警戒を解いているのを見ることはほとんどないのである5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。』
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