フ急速な減少の原因は、すべて、上述の人口に対する三大妨げに帰することが見られるであろう。そしてこれらの妨げは、特殊の事情によっては異常な力で作用するが、ある場合には、人口増加の原理よりもより[#「より」に傍点]強くはありえないであろう、とは主張されていないのである。
インディアンの酒精飲料に対する飽くことを知らぬ愛好は1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、シャルルボワによれば、表現しようのない烈しいものであるが2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、これは彼らの間に、しばしば死に至る争闘を絶えずひき起し、また彼らの生活様式からいって闘うことの出来ない新しい一系列の疾病に彼らを曝らし、かつ生殖能力をその本源そのものにおいて死滅させるのであるから、これだけで現在の如き人口減退を生み出すに足る罪悪と考え得よう。これに加うるに、ほとんどあらゆる所において、ヨオロッパ人とのインディアンの接触は、インディアンの意気を喪失させ、彼らの勤労心を弱めまたは誤った方向に向け、その結果として生活資料の源泉を減少する傾向のあることを、考えなければならない。サント・ドミンゴにおいては、インディアンはその残酷な圧制者を飢え死にさせるために、故意にその土地の耕作を放棄した3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。ペルウ及びチリイにおいては、土人の強制労働は、地面の耕作ではなく地下の穴掘へと、致命的な転化をさせられた。そして北方種族においては、ヨオロッパの酒精飲料を買おうという極度の願望から、彼らの大部分のものの勤労は、ただこれとに交換のために収穫増加に向けられることとなったが4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]、その結果として、彼らの注意をより[#「より」に傍点]収穫の多い生活資料の源泉へは向けず、同時に狩猟の生産物も急速に破壊するという傾向を有ったことであろう。アメリカの既知のすべての地方の野獣の数は、人間の数よりも以上に減少している5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。農業に対する注意は至る処でヨオロッパ人との接触から最初に期待された如くに増大するよりもむしろ稀薄となった。南アメリカであろうが北アメリカであろうが、そのいずれの地方においても、その数が減少した結果非常に豊かに生活するようになったインディアン民族があるという話は、聞かない。従って、現在ですら、上述のあらゆる有力な破壊原因があるにもかかわらず、アメリカ民族の平均人口は、ほとんど例外なしに、彼らの現在の勤労状態において獲得し得る平均食物量と、均等になっている、と云っても、大きな間違いはないであろう。
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1)[#「1)」は縦中横] Major Roger's Account of North America, p. 210.
2)[#「2)」は縦中横] Charlevoix, tom. iii. p. 302.
3)[#「3)」は縦中横] Robertson, b. ii. p. 185. Burke's America vol. i. p. 300.
4)[#「4)」は縦中横] Charlevoix, N. Fr. tom. iii. p. 260.
5)[#「5)」は縦中横] インディアンの間に火器が一般に採用されたことが、おそらく、大いに野獣を減少したことであろう。
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第五章 南洋諸島における人口に対する妨げについて
レイナル僧正は、ブリテン諸島の昔の状態と、島嶼民一般について語って、曰く、『人口の増進をおくらせる無数の奇妙な制度の起源を、吾々はこれらの人民の中に見る。食人、男子の去勢、女子の陰部封鎖、晩婚、処女の奉献、独身の称揚、余りに若く母となる少女に対し行われる処罰等がこれである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』島嶼における人口の過剰により起ったかかる習慣は、大陸にもたらされ、大陸の学者は今日なおこれが理由の発見に努めている、と彼は云っている。僧正は、敵に囲まれたアメリカの蒙昧種族や、他国に取巻かれてそれと同じ地位にある開けた人口稠密な国民は、多くの点で島嶼民と類似の境遇にあるものであることに、気がついていないように思われる。大陸では、島ほどには、人口のより[#「より」に傍点]以上の増加に対する障壁ははっきりとは劃されておらずまた普通の観察者にわかるわけではないけれども、しかもそれはほとんど打ち超え難い障害をなしている。そして、自国における窮情に我慢出来ないで国を去って外国に移った人も、そこで確実に救われるとは限らない。生産物がもうこれ以上増加されえないという国は、おそらくまだ知られていない。これは地球全体について云い得る全部である。大陸も島嶼も、その現実の生産物の点まで人口で充たされている
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