Bアブナアキイ族の間では、その戦士の一団が敵地に入った時には、それは一般に三十人または四十人から成る若干の部隊に分れ、そして酋長はその各々に云う、『お前はあの村を食ってよい、お前はあの村』等、と3)[#「3)」は縦中横、行右小書き、「)」が底本では欠落]。こういう表現法は、戦争で得た捕虜を食う習慣がもはや存在しない種族の言葉に残っている。しかしながら食人の風は、疑いもなく新世界の多くの地方に広く行われていたのである4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。そして、ロバトスン博士の意見とは反対に、私は、この習慣は後になって他の動機により継続されたということもあろうが、その起源は極端な欠乏に違いない、と考えざるを得ない。この恐るべき御馳走を、必要に迫られたのでない悪《にく》むべき情欲に帰し、最も人道的な文明的な人民の間ですら時に他のあらゆる感情に打克つところの自己保存の大法則に帰しないのは、人性と蒙昧状態に対する余りよいお世辞ではないようである。それがこの原因から時偶《ときたま》にせよ行われるに至った後は、敵の御馳走にされるかもしれぬという蒙昧人の恐怖は、恨や復讐の精神を著しくかき立て、その結果として、飢に迫られない場合にも捕虜を食うようになるのであろう。
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1)[#「1)」は縦中横] Robertson, b. iv. p. 150.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 164.
3)[#「3)」は縦中横] Lettres Edif. tom. vi. p. 205.
4)[#「4)」は縦中横] Robertson, b. iv. p. 164.
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宣教師達は、人間の肉が手に入りさえすれば、何か珍らしい動物の肉を食うのと同じに、これを食う、若干の民族のことを語っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。これはおそらく誇張されているかもしれぬ。もっともアメリカ西北方海岸の最近の航海記や、キャプテン・クックのニュウ・ジイランド南島の社会状態に関する記述は2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、大いにこれを裏書しているようである、が。ヌウトカ・サウンド人は食人種であるらしい3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。そして、この地方の酋長マクインナは、この恐るべき御馳走が非常に好きで、故に冷酷にも、この不自然な食欲
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