あらわれている反覆や前後矛盾する意見は、私の見解によれば、それほど非難するに当らない。けだしかかる調査の結果はいかなる個人の調査の結果よりも信頼し得るものであるからである。ある練達の士がかかる結果を引き出すとすれば、なるほど多くの貴重な時間は節約されるであろうが、その結果はそれほど満足なものではないであろう。もしこの仕事が附属的事項について若干手を加えられ、過去一五〇年に亙る正確完全な記録簿を含んでいたならば、それは測り知れぬ価値を有ち、そして一国の内部的状態に関し今まで世界にない完全な姿を表現したことであろう。しかしこの手を加えるという最後の最も重要な仕事は、いかに骨を折っても出来なかったことであろう。
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かかる細目を含んだ忠実な歴史があるならば、それは人口に対する不断の妨げがいかに働くかを大いに明かにする傾向を有ち、そしておそらく、上述の逆転進転の運動の存在を立証するであろう。もっともその振動の時期は多くの介在的原因によって必然的に不規則たらしめられざるを得ない。かかる原因とは、例えば、ある工業の興起または衰頽、農業の企業精神の普及の多少、年の豊凶、戦争、疾病流行期、貧民法、移民、その他類似の性質の諸原因が、それである。
この擺動を普通の人の眼につかぬようにするにおそらく最も寄与した事情は、労働の名目価格と真実価格との相違である。労働の名目価格が普遍的に下落するというのはごく稀である。しかし、食料品の名目価格が徐々として騰貴して来ているのに労働の名目価格がしばしば依然同一であるという風な場合を、吾々はよく知っている。このことは実際、商工業の増大が、市場に投じ込まれる新らしい労働者を雇傭し、かつその供給の増加によって貨幣価格が低下するのを妨げるに、足るという場合には、一般的に起ることであろう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし、同一の貨幣労賃を受取る労働者数の増加は、必然的にその競争によって、穀物の貨幣価格を騰貴せしめるであろう(訳註1)。これは事実上労働の価格の真実下落であり、そしてこの期間中は、社会の下層階級の境遇は徐々として悪化して行かなければならぬ。しかし農業者と資本家とは、労働の真実低廉によって富んで行く。彼らの資本が増加するので、より[#「より」に傍点]多数の人間を雇傭し得るようになる。そして、人口はおそらく、一家
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