拷チをもってしても、彼は以前にその家庭において消費していたと同一量の穀物その他の貨物を手に入れることは出来ないであろうが。
しからば労働者は実際により[#「より」に傍点]悪い支払を受けるであろうにもかかわらず、しかも彼れの労賃のこの増加は必然的に製造業者の利潤を減少せしめるであろう。けだし彼れの財貨は決してより[#「より」に傍点]高い価格で売れはしないであろうが、しかもなおそれを生産する費用は増加されるであろうからである。しかしながら、このことは、吾々が利潤を左右する諸原理を検討する際に、考察するであろう。
しからば、地代を高めると同一の原因すなわち食物の同一量を同一比例の労働量をもって供給する困難の増加がまた、労賃をも高めることがわかる。従って、もし貨幣が不変的価値を有つならば、地代と労賃との両者は、富と人口との増進につれて騰貴する傾向を持つであろう。
しかし地代の騰貴と労賃の騰貴との間には、こういう本質的の差異がある。地代の貨幣価値における騰貴は生産物の分前の増加を伴う。啻に地主の貨幣地代がより[#「より」に傍点]大となるばかりでなく、更に彼れの穀物地代もまたより[#「より」に傍点]大となる。彼はより[#「より」に傍点]多くの穀物を得、かつその穀物の各一定分量は、価値が騰貴しなかったすべての他の財のより[#「より」に傍点]大なる分量と、交換されるであろう。労働者の運命は地主よりも不幸であろう。なるほど彼はより[#「より」に傍点]多くの貨幣労賃を受取るであろうが、しかし、彼れの穀物労賃は減少するであろ[#「ろ」は底本では欠落]う。そして啻に穀物に対する彼れの支配が減ずるばかりでなく、更に彼れの一般的境遇も、労賃の市場率をその自然率以上に支持することのより[#「より」に傍点]困難なことを見出すであろうから、また悪化するであろう。穀物の価格が一〇%騰貴するとしても、労賃は常に一〇%以下しか騰貴しないであろうが、しかし地代は常により[#「より」に傍点]以上騰貴するであろう。労働者の境遇は一般的に下落し、そして地主のそれは常に改善されるであろう。
小麦が一クヲタアについて四|磅《ポンド》の時、労働者の労賃は一年二四|磅《ポンド》または小麦六クヲタアの価値であると仮定し、また彼れの労賃の半ばは小麦に費され、そして他の半ば、すなわち一二|磅《ポンド》は他の物に費されると仮定しよう。彼は、
小麦が{四|磅《ポンド》四シリング/四|磅《ポンド》一〇シリング/四|磅《ポンド》一六シリング/五|磅《ポンド》二シリング一〇ペンス}の時に{二四|磅《ポンド》一四シリング/二五|磅《ポンド》一〇シリング/二六|磅《ポンド》八シリング/二七|磅《ポンド》八シリング六ペンス}を、または{五・八三クヲタア/五・六六クヲタア/五・五〇クヲタア/五・三三クヲタア}の価値を、受取るであろう。[#この行「{}」に挟まれ「/」で区切られた要素は、底本では真横に並ぶ]
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彼はこれらの労賃を得ても、以前とちょうど同じに生活することは出来るが、より[#「より」に傍点]良くは生活し得ないであろう。けだし穀物が一クヲタアにつき四|磅《ポンド》の時には、彼は穀物三クヲタアに対して、一クヲタアにつき四|磅《ポンド》で[#地付き]…………一二|磅《ポンド》
そして他の物に[#地付き]…………一二|磅《ポンド》
[#地付き]―――
[#地付き]二四|磅《ポンド》
を費すであろう。
小麦が四|磅《ポンド》四シリング八ペンスの時には、彼と彼れの家族とが消費する三クヲタアは、彼に[#地付き]…………一二|磅《ポンド》一四シリング
価格の変動しない他の物は[#地付き]…………一二|磅《ポンド》〇シリング
[#地付き]―――――――――
[#地付き]二四|磅《ポンド》一四シリング
費さしめるであろう。
四|磅《ポンド》一〇シリングの時には、三クヲタアの小麦は[#地付き]…………一三|磅《ポンド》一〇シリング
そして他の物は[#地付き]…………一二|磅《ポンド》〇シリング
[#地付き]―――――――――
[#地付き]二五|磅《ポンド》一〇シリング
費さしめるであろう。
四|磅《ポンド》一六シリングの時には、三クヲタアの小麦は[#地付き]…………一四|磅《ポンド》八シリング
そして他の物は[#地付き]…………一二|磅《ポンド》〇シリング
[#地付き]――――――――
[#地付き]二六|磅《ポンド》八シリング
五|磅《ポンド》二シリング一〇ペンスの時には、三クヲタアの小麦は[#地付き]…………一五|磅《ポンド》八シリング六ペンス
そして他の物は[#地付き]…………一二|磅《ポンド》〇シリング〇ペンス
[#地付き]――――――――――――
[#地付き]二七|磅《ポンド》八シリング六ペンス
費さしめるであろう。
[#ここで字下げ終わり]
穀物が高くなるに比例して、彼はより[#「より」に傍点]少い穀物労賃を受取るであろうが、しかし彼れの貨幣労賃は常に増加するであろう。他方彼れの享楽品は上の仮定によれば正確に同一であろう。しかし、粗生生産物が他の貨物の構成に参加するに比例してそれは価格において引上げられるであろうから、彼はそのあるものに対しより[#「より」に傍点]多くを支払わなければならぬであろう。彼れの茶や砂糖や石鹸や蝋燭や家賃はおそらく決してより[#「より」に傍点]高くはならないであろうけれども、彼はそのベイコンやチイズやバタや亜麻布や靴や毛織布に対して、より[#「より」に傍点]多くを支払うであろう。従って右の如き労賃の騰貴をもってしても、彼れの境遇は比較的にはより[#「より」に傍点]悪くなるであろう。
(四〇)しかし私は、金すなわち貨幣の材料たる金属は労賃の変動した国の生産物である、という仮定の上で、価格に及ぼす労賃の影響を考察しつつあったし、また金は外国で生産された金属であるから、私が演繹した結論は事物の実情とほとんど一致しない、といわれるかもしれない。しかしながら、金が外国の生産物であるという事情は、議論の真理を無効ならしめることはないであろう、けだしそれが国内において見出されようともまた外国から輸入されようとも、結果は窮極的にしかも実に直接的にも同一であろうということが、証明され得ようからである。
労賃が騰貴する時には、それは一般に、富及び資本の増加が確実に貨物の生産増加を伴うべき労働に対する新需要を齎したからなのである。これらの増加せる貨物を流通させるためには、以前と同一の価格においてですら、より[#「より」に傍点]多くの貨幣が貨幣の材料であり、そして輸入によってのみ取得され得る所のこの外国貨物のより[#「より」に傍点]多くが、必要とされる。一貨物が以前よりもより[#「より」に傍点]多くの分量において必要とされる時には常に、その相対価値は、それでこの貨物の購買がなされる他の貨物に比較して騰貴する。もしより[#「より」に傍点]多くの帽子が求められる時には、その価格は騰貴し、そしてより[#「より」に傍点]多くの金が、それに対して与えられるであろう。もしより[#「より」に傍点]多くの金が必要とされるならば、金は価格において騰貴し、そして帽子は下落するであろうが、それは、その時には、帽子及び他のすべての物のより[#「より」に傍点]大なる分量が同一量の金を購買するために必要であろうからである。しかし仮定された場合において、労賃が騰貴するから貨物が騰貴するであろうというのは、明かな矛盾を肯定することになる。けだし吾々は第一に、金は需要の結果相対価値において騰貴するであろうと言い、そして第二に、それは物価が騰貴するから相対価値において下落するであろうと言っているが、これは互に全然両立し得ない二つの結果であるからである。価格において貨物が騰貴すると言うのは、相対価値において貨幣が下落すると言うのと同一である。けだし金の相対価値が測られるのは貨物によってであるから。しからばもしすべての貨物が価格において騰貴するならば、金は、これらの高価なる貨物を購買するために、外国から来ることは出来ないが、しかしそれは比較的により[#「より」に傍点]低廉な外国貨物の購買に用いるのが有利であるから、それに用いるために国内から出て行くであろう。しからば労賃の騰貴は、貨幣の材料たる金属が国内で生産されようとまたは外国で生産されようと、貨物の価格を引上げはしないであろうと思われる。すべての貨物は、貨幣の分量の附加なくしては同時に騰貴し得ない。この附加は、既に示した如くに、内国においても取得され得ず、また外国からも輸入され得ない。金のある附加量を外国から購買するためには、内国の貨物が高価でなく低廉でなければならぬ。金の輸入と、それで金が購買されまたは支払われるあらゆる国産貨物の価格騰貴とは、絶対的に両立し得ない二結果である。紙幣の広汎なる使用もこの問題を変更しはしない、けだし、紙幣は金の価値に一致するかまたは一致すべきであり、従ってその価値はこの金属の価値に影響する原因によってのみ影響されるからである。
しからばかかるものが、労賃を左右し、かつあらゆる社会の最大部分の幸福を支配する所の、法則である。あらゆる他の契約と同様に、労賃は市場の公正なかつ自由な競争に委ねらるべく、決して立法の干渉によって支配されてはならない。
(四一)救貧法の明白なかつ直接的な傾向は、かかる明白な諸原理に全く反するものである。それは、立法者が慈悲深くも意図したが如くに、貧民の境遇を改善すべきものではなくして、富者と貧者との双方の境遇を悪化せしむべきものである。貧民を富ましめることはなくして、それは富者を貧しくせんとするものである。そして現在の法律の施行中は、貧民を維持するための基金は逓増的に増加して、ついにそれは国の純収入のすべてを、または少くとも公共の支出に対する国家自身の欠くべからざる必要を満たした後に国家が吾々に残す純収入のすべてを、吸収するのは、全く事理の当然である(註)。
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(註)次のビウキャナン氏の章句に、私は、もしそれが窮乏の一時的状態を指すものであるならば、その限りにおいて同意する、すなわち、『労働者の境遇の大なる害悪は、食物の不足かまたは仕事の不足から起る貧困である。そしてあらゆる国において無数の法律が彼れの救済のために施行され来った。しかし立法が救済し得ない窮乏が社会状態にある。従って、行い得ないことを目指すがために真に吾々がなし得る善を見失わないために、その限界を知ることが有用である。』ビウキャナン、六一頁。
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かかる法律の有害なる傾向は、マルサス氏の有為な手によって十分に展開されているから、もはや神秘ではない(編者註)。そしてあらゆる貧民の友は熱心にその廃止を希望しなければならない。しかしながら不幸にして、それは極めて古くから行われ来っており、かつ貧民の慣習はその作用に基いて形造られ来っているから、吾々の政治組織から安全にそれを取除くことは、最も注意深くかつ巧妙な処理を必要とする。この法律の廃止に最も賛成な人々は、その利益のためにこの法律が誤って設けられた所の者に対する、最も恐るべき惨苦を妨げるのが望ましいならば、その廃止は最も徐々たる順序によってなさるべきであることに、すべて一致している。
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(編者註)『人口論』第三篇、第五、六、七章、第四篇、第八章。
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貧民の慰楽と福祉とは、彼らの数の増加を規制し、かつ早婚や不用意な結婚を彼らの間で減少せしめるために、彼らの側での幾らかの注意か、立法者の側での幾らかの努力がなければ、永久に確保され得ないことは、疑を容れない真理である。救貧法の制度の作用はこれに正反対であった。それは抑制を余計のものとし、そして慎慮と勤労とによって得た労賃の一部分をそれに与えることによって、不慎慮を招いたのである(註)。
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