髀鰍フ法則、すなわち貨物は、その生産に投ぜられる労働の分量の増減がなければ、決して価値において変動しない、という法則に、かなりの修正を齎すように思われる。それは本節において、労働の分量に何らの変動なくとも、単にその価値の騰貴は、それらの生産に固定資本が用いられる所の財貨の交換価値の下落を惹起すであろうし、固定資本の量が多ければ多いほど、下落は大である、ということが示されているからである。

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第五節 価値は労賃の騰落と共に変動しないという原理は、資本の不等な耐久力、及び資本がその使用者に囘収される速度の不等なこと、によってもまた修正される。
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(一九)前節において吾々は、二つの異れる職業における二つの相等しい資本について、固定資本及び流動資本の比例を不等なものと仮定したが、今度はそれらは同一の比例にあるが耐久力が不等である、と仮定しよう。固定資本の耐久力がより[#「より」に傍点]小となるに比例して、それは流動資本の性質に接近する。製造業者の資本を維持するためには、それはより[#「より」に傍点]短時間に消費され、かつその価値は再生産されるであろう。吾々はいま、一製造業において固定資本が重きをなすに比例して、労賃が騰貴する時には、その製造業において生産される貨物の価値は、流動資本が重きをなす製造業において生産される貨物の価値よりも、相対的により[#「より」に傍点]低い、ということを見た。固定資本の耐久力がより[#「より」に傍点]小となり、流動資本の性質に接近するに比例して、同一の結果が同一の原因によって生み出されるであろう。
 もし固定資本が耐久的性質のものでないならば、それをその本来の能率状態を維持するためには、年々多量の労働を必要とするであろう、しかしそのために投ぜられた労働は、かかる労働に比例して一つの価値を有たねばならぬ製造物に真に費されたものと考え得るであろう。もし私が二〇、〇〇〇|磅《ポンド》に値する一台の機械を有ち、それは極めてわずかの労働で貨物の生産をなし得るとし、かつもしかかる機械の損耗磨滅は僅少量であり、一般的利潤率は一〇%であるとするならば、私はその機械を使用したという理由で、遥かに二、〇〇〇|磅《ポンド》以上の財貨の価格に附加されるべきことを、要求しないであろう。しかしもし機械の損耗磨滅が大きく、それを有効の状態に保っておくに必要な労働の分量が年々に五十名の労働に当るとすれば、私は、他の財貨の生産に五十名を使用し、かつ機械を全然使用しない所の、他の製造業者によって得られると等しい附加的価格を、私の財貨に対して要求するであろう。
 しかし労働の労賃の騰貴は、急速に消費される機械によって生産される貨物と、遅々として消費される機械によって生産される貨物とに、等しくは影響を及ぼさないであろう。一方の生産においては、生産された貨物に多量の労働が引続き移転されるであろう。――他方においては、極めてわずかがかく移転されるに過ぎないであろう。労賃のあらゆる騰貴、または同じことであるが、利潤のあらゆる下落は、耐久的性質を有つ資本をもって生産された貨物の相対価値を下落せしめ、そして消耗的な資本をもって生産された貨物の相対価値を比例的に高めるであろう。
 私は既に、固定資本は種々なる程度の耐久力を有つことを述べた、――今、ある特定の事業において用いられ得る一台の機械は一年間に百名の人間の仕事をなし、かつ一年間だけ持続するものと仮定せよ。また機械は、五、〇〇〇|磅《ポンド》に値し、かつ年々百名の人間に支払われる労賃は五、〇〇〇|磅《ポンド》であると仮定すれば、製造業者にとってはこの機械を買うか人間を雇い入れるかは無関心事であろうことは、明かである。しかし労働が騰貴し従って一年間百人の労賃が五、五〇〇|磅《ポンド》に上ると仮定すれば、製造業者は今や躊躇しないであろうことは明かである。機械を買いそして彼れの仕事を五、〇〇〇|磅《ポンド》で済ませるのが彼れの利益であろう。しかし、労働が騰貴せる結果、機械は価格において騰貴し、すなわちそれもまた五、五〇〇|磅《ポンド》に値しないであろうか? それは、もしいかなる資本もその製造に使用されず、そしてその製造者に支払われるべきいかなる利潤も無いならば、価格において騰貴するであろう。例えばもしこの機械が、各々五〇|磅《ポンド》の労賃で一年間その製造に働く所の百名の人間の労働の生産物であり、従ってその価格は五、〇〇〇|磅《ポンド》であると仮定すれば、それらの労賃が五五|磅《ポンド》に騰貴するならば、その価格は五、五〇〇|磅《ポンド》になるであろうが、しかしこれはあり得ないことである。用いられるのは百名以下の人間である、しからざれば
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