searches, vol. iv. p. 401.
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これより一段階進んだ人類としては、吾々は、ニュウ・オランダの住民を挙げ得ようが、その一部については、久しくポオト・ジャクソンに住んでいて、その習慣や行状をしばしば実見する機会を有った一人の人から、信ずるに足る報告を得ている。キャプテン・クックの第一航海記の報告者は、ニュウ・オランダの東海岸では極めて少数の住民しか見られず、その荒廃せる状態からしてこれ以上の人間を養うことは明かに不可能である、と述べた後、曰く、『この地方の住民がどうして現在養っているような人口に減らされたのかは、おそらくなかなか推断しにくい。それがニュウ・ジイランドの住民のように、食物を争って相互の手で殺し合ったのか、偶発的の飢饉で一掃されたのか、または種族の増加を妨げる何らかの原因があるのかの判定は、将来の探検家に委ねられていることでなければならぬ1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Cook's First Voy. vol. iii. p. 240.
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コリンズ氏がこの蒙昧人について述べているところは、思うに、ある程度まで満足な答を与えるものであろう。それによると彼らの身長は一般に高くなく、身体はがっちりともしていない。彼らの腕や脛や腿は瘠せているが、それは彼らの生活様式が貧弱なためである。海岸に住むものは、食物としてはほとんど全く魚肉にたより、時に小さなゴム樹の幹の中にいるかなり大きな蛆を見出してほっとしている。森林には動物が非常に少く、それを獲るには非常に大きな労働がいるので、奥地の土人も海岸のものと同様に貧しい境遇にある。彼らは蜜や、むささび、袋鼠のような小動物を求めて、非常に高い木に登らざるをえない。幹が非常に高くしかも枝のない時には――これは密林での通例であるが――これは非常に骨の折れる労働であり、左手で木を抱きながら、一歩ごとに順次その石斧で刻目を作って、登るのである。その最初の枝に達するまで八十|呎《フィート》の高さに至るまでもこのようにして刻目をつけられた木が見られたが、ここまで登らなければ、飢えた蒙昧人はこれほどの骨折りに対する何らかの報酬を手に入れることを望み得なかったのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Collins's Account of New South Wales, Appendix, p. 549. 4to.
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森林は、そこで時に見出される動物を別とすればほとんど食物を与えない。少しばかりの漿果《しょうか》、やまいも、羊歯《しだ》の根、種々な灌木の花が、植物性食物の目録の全部をなすものである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 557. 4to.
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子供づれの一人の土人がホオクスベリ河の岸で、我国の移民にびっくりして、独木舟で逃げ去ったが、その後に彼れの食物と彼れの胃の腑の繊細加減を示す見本を残して行った。彼は、穴だらけの水に濡れた木の一片から、大きな虫をほじり出して食っていたのである。虫とその居場所とのにおいはこの上もなく臭気のはなはだしいものであった。かかる虫はこの土地の言葉ではカアブロオと呼ばれている。そして奥地に住む土人の一種族は、この胸の悪くなる虫を食うところから、カアブロガアルと呼ばれている。森林の土人もまた、羊歯の根と大小の蟻をまぜて作ったねり物を食っており、また産卵期には蟻の卵も加えている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 558.
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食物としてこんなものに頼らざるを得ず、動植物の食物の供給がかくも乏しく、それを得るための労働がかくも苦しい土地では、人口が地域に比較して非常に稀薄に散在していなければならぬことは明かである。その最大限は非常に狭くなければならぬ。しかし吾々は、これらの人民の奇妙な野蛮な風習、彼らの女子に対する残酷な取扱、及び子供を養う困難を注意して見ると、その人口がこの限界を突破することがもっとしばしば起らぬことに不審を抱くよりは、むしろかかる貧弱な資源ですらかかる境遇の下に成長し得るすべての人口を養って余りあるものとさえ、考えたくなるのである。
この国における恋愛の序曲は暴力、しかも極めて残虐な暴力である。野蛮人は、思う妻を異る種族から、一般に彼れの種族と敵対している種族から選ぶ。彼は、その保護者のいない間に女を盗み出し、そしてまず棍棒か木刀で女の頭や背中や肩を血だらけにするまでなぐりつけて気を失うや、それを片手で引ずって、途中の石ころや木片などにかまわず森の中をひきずり、ただその獲物を無事に自分の仲間の所まで運ぼうと急ぐのである。このような取扱いを受けた女は彼れの妻となり、彼れの種族の一員となるのであるが、この男をすてて他の男のところへ行くことは滅多にない。こんなひどい目にあっても女の親族は憤慨せず、ただ出来るときには今度は自分も同じことをして復讐するだけのことである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 559.
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両性の結合は早期に行われる。そして非常に若い少女が男によりひどい恥しい凌辱を受けているのは我国の移住民がよく見るところである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 563.
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その一人または二人以上の妻に対する夫の処置は、この奇怪野蛮な求婚様式と性質が似ているようである。女性はその頭に男の優越の痕を止めており、これは、男がその腕に打つ力を見出すや否や直ちにそれを発揮してこしらえたものである。かかる不幸な女のあるものは、その刈り込まれた頭の至る所に数え得ないほどの傷痕をもっている。コリンズ氏は感傷的に曰く、『これらの女の境遇はあまり悲惨なので、私は母の肩におぶさっている女の子を見ると、その子の将来の悲惨なことを予見して、それを殺してしまった方が慈悲であろうとしばしば考えた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』他の場所では彼は分娩中のベニロングの妻のことについて曰く、『私は今この記録の中に、ベニロングがあることに腹を立てて、分娩直前の朝この女を激しくなぐったという覚書を見出した2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 583.
2)[#「2)」は縦中横] Id. Appen. note, p. 562.
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このように獣的に取扱われる女は、必然的にしばしば流産せざるを得ず、またおそらく、前に述べたような、非常に若い少女の凌辱が普通に行われ、また両性の結合が一般にあまりに早く行われれば、女性の生殖力は減殺されるであろう。一妻よりも多妻の場合の方が一般であるが、しかし驚くべきことには、コリンズ氏は二人以上の子供のある場合は一度以上は思い出せないのである。彼はある土人から第一の妻は夫婦関係の独占権を有つものとされているが、第二の妻は単に両人の奴隷であり召使に過ぎない、と聞いたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 560.
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夫婦関係に対し第一の妻が絶対独占権を有つということはありそうもないことである。しかし第二の妻がその子供を育てることを許されないということは、あり得ることである。とにかく、もし右のことが一般的に正しいとすれば、多くの女には子供がないのであり、これは、彼女らの激しい苦難、またはコリンズ氏には知られなかったある特別な習慣に起因するものであることを、証明するものである。
もし乳児の母が死ねば、この頼りなき幼児は生きたまま母と同じ墓に埋められる。父親自身が生きている子供を母の死骸の上に置き、それに大きな石を投げ込むと、他の土人がすぐ墓を埋めてしまうのである。我国の移住民によく知られているコーレーベーという土人が、この恐ろしい行為をしたが、彼はこのことを訊ねられたときに、この子供を育てる女はどこにも見出すことは出来ず、従ってこうして死を与えなければもっとひどい死に方をしなければならないはずだと云って、その行為を弁解した。コリンズ氏は、この風習は一般に行われていると信ずべき理由があると云い、それがある程度人口の稀薄の理由をなすものであろう、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き、「1」が底本では欠落]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 607.
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かかる習慣は、それ自身としてはおそらく一国の人口に大きな影響を与えるものではなかろうが、蒙昧人の生活で子供を育てることの極めて困難なることをよく物語るものである。その生活習慣上絶えず居住を変え、その夫のために絶えず苦役に服せざるを得ない女は、ほとんど同じ年頃の二三人の子供を育てることは絶対に出来ないように思われる。上の子供が独り立が出来て母に歩いてついて行けるようになる前に、もう一人子供が出来れば、世話が行届かずに二人の中一人はほとんど必然的に死ななければならない。このような放浪的な苦労の多い生活では、たった一人の子供でさえこれを育てることは非常に厄介な苦しい仕事に相違ないのであるから、母たるの強い感情に刺戟されないくらいの女でそれを引受けるもののあり得ないのは、驚くに当らぬことである。
生れて来る人間を力ずくで抑圧するこれらの原因の外に、なお結果においてこれを殺すに寄与する原因を挙げなければならぬ。すなわちこれら蒙昧人の他の種族との頻々《ひんぴん》たる戦争と相互間の不断の闘争、深夜の殺人を促がししばしば無辜《むこ》の流血を惹き起す不思議な復讐心、醜悪な皮膚病を発生させるような彼らのみじめな住居の煤や汚物、及びあわれな生活様式、なかんずく多数の人間を一掃する天然痘の如き恐るべき伝染病がこれである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] See generally, the Appendix to Collins's Account of the English Colony in New South Wales.
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一七八九年に彼らはこの悪疫に見舞われたが、これは天然痘の一切の特徴と猛烈さとをもって、彼らの間に猖獗《しょうけつ》を極めた。それがもたらした荒廃はほとんど信じ得ないほどである。彼らが最も姿を見せた湾や渡場には、ただの一人も生きた人間は見られなかった。砂上にはただの一つの足跡でさえ認められなかった。死骸は更に死骸で蔽われた。岩間の穴は腐った屍体で満たされ、また多くの地方では道は骸骨で蔽われた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 597.
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コリンズ氏は上述のコーレーベーの種族は、この恐るべき病気の結果、たった三人になってしまい、この三人は全滅を免れるため他の種族と合体せざるを得なかった、と聞いたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 598.
[#ここで字下げ終わり]
かかる人口減退の有力な原因があるのであるから、吾々
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