訳註〕第一版ではこれに続いて次の一文があったのであるが、第二版以下ではこれを削除し、その代りとしてこれ以下の記述が現れたのである。
『そしてこの抑制は、絶対的にではないとしても、ほとんど必然的に、罪悪を生み出す。しかしすべての社会では、最も罪悪の多い社会ですら、道徳的な結合に向う傾向は非常に強く、従って人口の増加に向う不断の努力がある訳である。この不断の努力は、同じく不断に、社会の下層階級を困窮に陥らしめ、その境遇の何らかの永久的大改善を妨げる傾向があるのである。』
[#ここで字下げ終わり]
もしこの抑制が罪悪を生み出さないならば(訳註)、これは疑いもなく人口原理から生じ得る最小の害悪である。強力な自然的性向に対する抑制たることを考えれば、ある程度の一時的不幸をもたらすことは認めなければならぬが、しかし人口に対する他の妨げのいずれから生ずる害悪と比べても明かに軽微な不幸であり、そして道徳的因子の不断の職務たる永久的満足のための一時的満足の犠牲という、その外にも数多い場合と同一性質のものに過ぎない。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕第二版ではここに次の挿入句が入る、――
『これは多くの場合において事実であり、また中流及び上流の婦人の間では極めて一般的なことであるが、』
なおこのパラグラフの最後の『そして道徳的因子の……』以下は第三版より現る。
その他第三版以下で用語上の修正が若干ある。
[#ここで字下げ終わり]
この抑制が罪悪を生み出す時には、これに伴う害悪は余りにも顕著である。子供の出生を妨げるほどの乱交は最も明かに人性の尊厳を低下するように思われる。それは必ずや男子に影響を与えるが、それが女性の人格を堕落せしめ、その一切の愛らしい女らしい特性を破壊する傾向よりも明かなものは、他にあり得ない。これに加うるに、あらゆる大都市に溢れている、かの不幸な女性のそれをもってするならば、おそらく他の人生のいかなる部門よりも大きな本当の惨情と多大の窮乏とが見られるということになる。
性に関する道徳の一般的腐敗が一切の社会階級に瀰漫する時には、その結果は必然的に、家庭的幸福の源泉を害し、夫婦と親子の愛情を弱め、父母が一緒に子供を世話し教育する努力と熱意とを減少しなければならぬ、――かかる結果たるや必ず社会の一般的幸福及び道義の決定的減少を伴うものであり、特に私通を行うため、及びその結果を隠蔽するための、術策の必要は、必然的に他の多くの罪悪に導くにおいてを[#「を」は底本では「お」]やである。
人口に対する積極的妨げは極度に多種多様あり、そして、罪悪から起ろうと窮乏から起ろうと、何らかの程度において人間の天寿を短縮するに役立つあらゆる原因を含むものである。従ってこの部類の下には、一切の不健康な職業、過酷な労働や寒暑への暴露、極貧、子供の養育不十分、大都市、あらゆる種類の不節制、一切の普通の病気や伝染病、戦争、悪疫、及び飢饉が挙げられ得よう。
私が予防的及び積極的妨げの部類の下に分類した人口の増加に対するこれらの障害を検討すると、それがすべて道徳的抑制、罪悪、及び窮乏になることがわかるであろう。
予防的妨げの中、不正常な満足を伴わない結婚の抑制は、正当に、道徳的抑制1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]と名づけられ得よう。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] 私がここで道徳的[#「道徳的」に傍点]という言葉をその最も限られた意味に用いていることがわかるであろう。道徳的抑制とは、慎慮的動機に発する結婚の抑制で、この抑制の期間中厳重に道徳的な行為を行うことを、意味するものと理解されたい。そして私は意識的にこういう意味から離れたことはないのである。その結果と関係のない結婚の抑制を云おうと思う時は、私はそれを、慎慮的抑制と呼ぶか、または予防的妨げの一部――たしかにこれは予防的妨げの主たる部分である――と呼んでいるのである。
私は、各種の社会段階を通観しているところで、人口を防止する上において道徳的抑制に十分の重要性を認めていないといって、攻撃されている。しかしここで述べたところの、この言葉の限られた意味を観るならば、この点について私は大きな誤《あやま》ちは犯していないことがわかると思う。私が誤っているのなら私は非常に嬉しい(訳註――この註は第三版より現る)。
[#ここで字下げ終わり]
乱交、不自然な情欲、婚床の冒涜《ぼうとく》、私通の結果を隠蔽するための不当な術策は、明かに罪悪の部類に属する予防的妨げである。
積極的妨げの中、自然法則から不可避的に起ると思われるものは、もっぱら窮乏と呼び得よう。そして、戦争、不節制、その他多くの吾々の力で避け得るものの如き、吾々が明かに自ら招来したものは、混合的性質を有っている。そ
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