、一億二千百万の人口は全く食物を与えられないということになるであろう(訳註)。
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〔訳註〕このパラグラフに該当するものは、1st ed., pp. 23−24.
[#ここで字下げ終わり]
 この島国の代りに地球全体をとれば、移民はもちろん別問題になる。そして、現在の人口を十億に等しいと仮定すれば、人類は一、二、四、八、一六、三二、六四、一二八、二五六と増加し、そして生活資料は一、二、三、四、五、六、七、八、九と増加するであろう。二世紀すれば、人口の生活資料に対する比は二五六対九となり、三世紀すれば四〇九六対一三となり、そして二千年たてばその開きはほとんど計算し得なくなるであろう。
 右の仮定においては、土地の生産物に対してはいかなる限界もおかなかった。それは永久に増加し、そして指示し得るいかなる数よりも大となるであろう。しかもなお人口増加力はあらゆる時期において極めて優越するので、人類の増加は、より[#「より」に傍点]大なる力に対する妨げとして働くところの、かの強力なる必然の法則の不断の作用によってのみ、生活資料の水準に抑止され得るのである(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕以上二つのパラグラフに該当するものは、1st ed., pp. 25−26.
[#ここで字下げ終わり]
[#改丁]

    第二章 人口に対する一般的妨げとその働き方について

 しからば、人口に対する窮極的妨げは、人口と食物とが増加する率が異るところから必然的に生ずる、食物の不足であることがわかる。
 直接的妨げは、生活資料の稀少によって発するように思われる一切の慣習と一切の疾病、及び、この稀少とは関係がないが、時期に先立って人類の体躯を弱めかつ破壊する傾向のある、道徳的たると物理的たるとを問わず、一切の原因であると云い得よう(訳註)。
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〔訳註〕以上全部は第三版より現る。
[#ここで字下げ終わり]
 あらゆる社会において不断に多かれ少なかれ有力に働いており、そして人口を生活資料の水準に保っている、人口に対するかかる妨げは、二つの一般的部類に分類され得よう、――すなわち予防的妨げと積極的妨げとに。
 予防的妨げは、自発的である限りにおいて(訳註1)、人間に特有なものであり、人間をして遠い結果を秤量し得せしめる理性力の優越特性に発するものである。植物及び非理性的動物の不定限の増加に対する妨げは、すべて、積極的であるか、または予防的であるとしても非自発的である(訳註2)。しかし人間は、自己の周囲を見廻わし、そして大きな家族を有つ者をしばしば圧迫する窮情を見る時には、また現在ほとんど自分で消費しているその現在の財産か稼ぎ高を考え、そしてそれにほとんど加えるところなくしてこれをおそらく七人または八人に分たねばならぬ場合の各人の分前を計算してみる時には、彼がその思考の趣《おもむ》くままに従うならば、彼がおそらくはこの世にもたらすべき子供達を養うことが出来るであろうか、という疑惑を感ぜざるを得ないのである。平等社会(訳註3)という風なものがあり得るとすれば、かかる社会では、これは簡単な問題であろう。だが現在の社会状態においては、他の考慮が起って来る。彼は世におけるその地位を低め、そして以前の習慣を著しく抛棄せざるを得なくなりはしないであろうか。何かの仕事が現れて来て、それにより、一家を維持することを合理的に希望し得ようか。とにかく彼は、独身の場合よりも大きな困難と激しい労働とに身を委ねることにはならないであろうか。自分自身が身につけていると同じ教育と進歩とをその子供達に譲ることが出来ないのではなかろうか。大家族を有つならば、彼が出来るだけ努力しても、襤褸《らんる》と赤貧と、及びその結果たる社会における堕落とから、彼らを救い得るということでさえ、確信し得るだろうか。そしてその独立を失い、かつ慈善の乏しい手に暮しを頼らざるを得ないという、切端《せっぱ》つまった地位に立つことにはならぬであろうか、と。
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〔訳註[#「註」は底本では欠落]1〕『自発的である限りにおいて』なる句は第3版より現る。
〔訳註2〕この一文は第二版では次の如くである、――
『植物及び動物は、明かに、その子孫の将来の養育については何の疑問も有たない。従って彼らの不定限の増加に対する妨げは、すべて積極的である。』
〔訳註3〕この個所以下と次のパラグラフとは、1st ed., p. 28. からの書き写しである。
[#ここで字下げ終わり]
 かかる考慮が払われればこそ、あらゆる文明諸国の多数のものは、一人の婦人に愛着するという自然の命に服さずにいるように思われるし、また確かに服さずにいるのである(訳註)。
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