nの家屋は密集して、またはほぼ密集して建てられ、各所の農場に散在することはない。その結果として村のすぐ近くではまもなく土地が足りなくなり、しかも遠方の土地は依然不完全にしか耕作されていない、ということになる。この事実をコッチェスナイアの植民地で見て、パラスは、女帝によってある部分を他の地方に移し、もって残存者をもっと楽に暮せるようにしたら好かろう、という提案をした5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。この提案は、自発的なこの種の分割は余り行われず、そして入植者の子供達に常に必ずしも、自ら容易に定住し新しい家族を養えるわけではないことを、証明するものの如くである。サレプタのモラヴィア教団の繁栄した植民地では、若者はその牧師の同意なくしては結婚することが出来ず、そしてその同意は一般に年をとらなければ与えられない、と云われている6)[#「6)」は縦中横、行右小書き]。従ってかかる新しい植民地においてすら、人口の増加に対する障害の中には、予防的妨げが入っていることがわかるであろう。人口は、アメリカにおける如くに、普通労働の真実価格が極めて高い場合の外は、決して急速に増加し得ないものである。そしてロシア領のこの地方の社会の状態により、またその結果たる、勤労の生産物に対する適当な販路の欠乏により、新しい植民地に通常随伴しそしてその急速な増大にとり不可欠である所の、右の如き結果は、大なる程度には現われないのである7)[#「7)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. iii. p. 16. 蕃殖力が決して十分に発揮されていない国においては、不健康な季節と伝染病とは平均人口に対してはほとんど影響を及ぼさないけれども、この点において境遇の異る新植民地においては、これらは著しくその増進を阻害する。この点は十分には理解されていない。停止的であるかまたは極めて徐々として増加しつつある国において、人口に対する上述せるすべての直接的妨げが引続き働き続けるならぱ、いかに食物が豊富でも人口を著しく増加し得ないであろう。しかし食物の豊富が生ずる間違いのない作用は、従前行われていた直接的妨げを減少せしめるということである。しかしながら、習慣を変更するの困難からか、または土壌か気候かの何らかの不利な事情かにより、依然残存するものは、引続き蕃殖力がその全幅の作用を発揮するのを阻止するであろう。
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 17, tom. v. p. 411.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. tom. v. p. 252 et seq.
 4)[#「4)」は縦中横] Tooke's Russian Empire, vol. ii. p. 245.
 5)[#「5)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. v. p. 253.
 6)[#「6)」は縦中横] Id. p. 175.
 7)[#「7)」は縦中横] パラスの言及していない他の原因がシベリアの人口を抑制するに共働したかもしれない。一般的に云えば、私がこれまでに言及したかまたは今後述べるべき人口に対するすべての直接的妨げに関しては、次の如く云わけければならぬ。すなわち、その各々が作用する範囲と、それが全蕃殖力を害する比例とを、確かめることは、明かに不可能であるから、人口の現実の状態に関する正確な推論はこれらからア・プリオリに引き出すことは出来ない。異る二国民に行われている妨げが種類から云えば全く同一に見えても、それが程度において異るならば、その各々における増加率はもちろん全然異るであろう。従って吾々としては、物理的研究におけると同様の手順をとり、すなわちまず事実を観察し、次いで蒐集し得る最良の根拠に照してこれを説明する外はないのである。
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    第十章 トルコ領及びペルシアにおける人口に対する妨げについて

 トルコ領中のアジア方面において、人口に対する妨げ、及びその現在の減衰の原因を、族行家の記述から知ることは、困難ではなかろう。そしてトルコ人の生活様式は、ヨオロッパに住もうとアジアに住もうと、ほとんど違いはないのであるから、両者を別々に考察する必要はなかろう。
 トルコにおける人口が、領土の面積に比較して低位にある根本的原因は、疑いもなく、政府の性質にある。その専制、その弱体、その悪法とこれが悪運用は、その結果たる財産の不安固と相俟って、農業の途上に大きな障害を与えるので、その結果として生活資料は必然的に年々減少し、それと共にもちろん人口も年々減少しつつある。ミリすなわちサルタンに支払う一般地租は、それ自身としては穏当なものである1)[#「1)」は縦中
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