「う事実であり、そしてこの生産物の分配なるものは、土地の分割が依然同一であっても、それのみで、社会の下層階級をしてその土地が与える豊かな産物の享受者たらしめ得るものである。農法は極めて簡単であり、ほとんど労働者を必要としないと云われている。ある所では種子が単に休耕地に散布されるだけである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。蕎麦が普通の作物であり、そしてそれは極めてまばらに蒔かれるが、しかし一度蒔けば五、六年間も持ち、そして毎年最初の二十倍または十五倍もの収穫を産する。収穫時に落ちる種子で翌年には十分であり、そして春に一度|耙《ならしぐわ》で均《な》らす必要があるだけである。そしてこれは土壌の肥沃度が減退し始めるまで継続される。シベリア平原の怠惰な住民にこれほど適当した穀作はないと云われているが3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、これはもっともなことである。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Polit. Econ. b. i. c. v. p. 30. 4to.
 2)[#「2)」は縦中横] Voy. de Pallas, tom. i. p. 250.
 3)[#「3)」は縦中横] 〔De'couv. Russ. vol. iv. p. 329. 8vo. 4 vols. Berne.〕
[#ここで字下げ終わり]
 農業組織はかくの通りであり、また工業はほとんどまたは全く無いので、労働に対する需要は極めて容易に充足されるに違いない。穀物は疑いもなく極めて低廉であろうが、労働はそれとの比例で更に低廉であろう。農業者は自分自身の子供達には十分な分量の食物を与え得るかもしれぬが、しかし彼れの労働者の労賃は家族を楽々と養うには足りないであろう。
 もし土壌の肥沃度に比較して人口が不足しているのを見て、吾々が、子供に奨励金を与え、かくして労働者をしてより[#「より」に傍点]多くの家族を養い得るようにして、この事態を改善せんとしたとすれば、その結果はどうであろうか。かくの如くして市揚に齎される過剰の労働者の仕事を、何人も要求しはしないであろう。たとえ一人一日のたっぷりの食糧が一ペンスで買い得るとしても、これらのものにその労働に対して一ファージングすら支払おうとするものはないであろう。農業者は、自分自身の家族と、従来使用していた一、二人の労働者によって、彼れの希望する一切を、彼が土壌の耕作に必要と考える一切を、することが出来る。従ってこれらのものは、農業者にその欲するものを何も与えないのであるから、単に彼らに無償で食物を与えるために、農業者がその性来の怠惰心を克服し、そしていっそう大きいいっそう骨の折れる仕事をするようになるとは期待し得ない。かかる事態において、工業労働に対する非常に小さな需要が充足された時には、他の人々はどうすべきであろうか。彼らは実際、あたかも不毛の沙漠に住んでいるのと同様に、全く生活資料がないのである。彼らはその仕事が需要されるある場所に移住するか、または貧困の極《きわみ》窮死するかしかない。かれらの労働がわずかにまたほんの時々使用される結果として、彼らに乏しい生活資料が与えられ、これによってかかるとことんまでおちるのを免れたとしても、彼ら自身は生存し得るかもしれぬが、結婚して人口を増加し続ける能力のないことは、明かである。
 もしヨオロッパの最もよく耕作されかつ最も人口稠密な国に現在の土地と農場の分割が行われており、しかも商工業がこれに伴っていなかったとしたならば、より[#「より」に傍点]以上の耕作に対する動因が全然欠けており、従って労働の需要がないために、人口は久しい以前に停止してしまっていたことであろう。そしてここで考察している国の過度の肥沃度が、この困難を減少するよりはむしろ加重するものなることは、明かである。
 もし使用されない多くの良い土地があるならば、アメリカの場合の如くに、新しい定住と分割とがもちろん行われ、そして過剰人口はそれ自身の食物を作り出し、それに対する需要を生ぜしめるであろう、とおそらく云うものがあるかもしれない。
 疑いもなく、好郡合な事情の下においてはそうなるであろう。すなわち例えばもし、第一に、穀物と同じく他のすべての資本の原料を提供する如き性質を士地が有つならば、第二に、かかる土地が小口で買うことが出来、また財産が自由政府の下で保証されているならば、そして第三に、勤労と蓄積との習慣が人民大衆の間に広く行われているならば、というのがそれである。以上の条件のいずれかが欠けているならば、人口の増加は本質的に妨げられ、または全然停止されるであろう。最も豊かな穀作に堪える土地でも、樹木と水がないために、広大な一般的な定住に全く適しないということもあろう。もし農地借地権
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