接する諸民族は一般に短命である。二十二歳のシャンガラの女は、ブルウスによれば、六十歳のヨオロッパの女子よりも、皺が多くかつ老いぼれている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。従って、これらすべての国においては、絶えず移住していた時代の北方の牧畜民族と同様に、極めて急速な人間の新陳代謝が行われていることが、わかるであろう。そして両方の場合の相違は、吾々の北方の祖先は自国外で死んだが、しかるにこれらは故国で死んだという点である。もしこれらの諸民族の間に正確な死亡表がとられていたならば、それは、ヨオロッパ諸国を平均して三四、三六、または四〇人につき一人という比率とは異り、戦死者をも含めて、少くとも一七または一八人につき一人が年々死亡することがわかるであろうことを、私はほとんど疑わないのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. ii. p. 559.
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 ブルウスが帰国の途中通過した国のある地方について述べているところは、アビシニアの状態よりも恐ろしい情景を呈しており、そして人口が、食物の生産と、この生産物に影響を及ぼす自然的並びに政治的事情に比較して、子供の出産にはいかに依存しないものであるかを、示すものである。
 ブルウスは曰く、『六時半に、吾々は、ガリガナに着いたが、これはその住民がすべて前年に餓死してしまった村である。彼らのあわれな骨はすべて葬られもせず、前に村のあった場所に散らばっていた。吾々は死者の骨の間に野営した。どこも骨のない所は見出し得なかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』と。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 349.
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 彼はその途上のもう一つの町または村について曰く、『ティアワの勢力は馬二五頭であった。爾余《じよ》の住民は、村々の爾余のものと同様に、裸かの惨めな卑しい一、二〇〇人のアラビア人だったらしい。………これがティアワの状態であった。しかしこの状態が続いたのも、ダヴェイナ・アラビア人がこれを攻撃する決心をし、穀物畑が一夜にして多数の乗馬隊によって焼き払われ破壊され、その住民の骨がガリガナのあわれな村の骨と同じく地上に散らばっているのがその唯一の名残りであるというような状態に、なるまでのことでしかなかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 353.
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『ティアワとベイラの間には水が少しもない。かつてはインデディデマ及び多くの村は、井戸から水を得、その所有地の近くに玉蜀黍《とうもろこし》を播いて多くの収穫を得ていた。しかしこの地方の呪詛たるダヴェイナ・アラビア人は、インデディデマ及びその附近のすべての村を破壊してしまい、その井戸を埋の、その穀物を焼き払い、そして全住民を餓死するに委ねたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 411.
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 彼は曰く、センナアルを出てまもなく、『吾々は雨量不足の結果を見はじめた。穀物はわずかしか播かれていず、それも非常に時期おくれでほとんど地上に芽を出していなかった。雨が北方を通過する時は雨期はおそく始まるように思われる。多くの人がここで、非常に悪質のパンを作るために、草の実を集めていた。これらの人民は完全な骸骨のような姿であったが、これはこんな食物を食っているのであるから無理もないことである。通過する国の食物の欠乏ほど、旅行の危険と異国人に対する偏見を増大するものはない1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 511.
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『エルティックという、ナイル河から半|哩《マイル》ばかり離れ、大きな茫々たる平原の北方にある、人家のまばらな村に来た。樹木に覆われている川岸を除けば、すべて牧場である。吾々はもはや穀物の蒔いてあるのを見なかった。住民はここでも、吾々が前に述べたあわれな仕事に、草の実集めに、従事していた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 511.
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 かくの如き気候及び政治的情勢の下においては、より[#「より」に傍点]高い程度の先見、勤労、及び安固があれば大いに彼らの境遇は改善され彼らの人口は増加されるであろうけれども、かくの如き随伴物なくしてより[#「より」に傍点]多数の子供の出生
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