p. 124.
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 数の点ではアビシニアで最も有力な民族の一つたるアゴウ族は、ほとんど信じられないような窮乏と貧困の状態に生活している、とブルウスは述べている。彼は云う、吾々は人間とは思えぬほど皺がより陽に焼けた多くの女が、炎天の下で、背中に一人または時には二人の子供を背負って、一種のパンを作るためにみやまぬかぼの種子を集めながらうろついているのを見かけた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。アゴウ族の女は十一歳で子供を産みはじめる。彼らは大体その年頃で結婚するが、彼らの間に不姙というようなことは知られていない2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。アビシニアの国境都市の一つたるディクサンにおいては、唯一の取引は子供を売ることである。毎年五百人がアラビアに輸出され、そして欠乏の年にはその四倍くらいに上る、とブルウスは云っている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. xix. p. 738.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. c. xix. p. 739.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. c. iii. p. 88.
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 アビシニアでは一夫多妻は規則的には行われていない。ブルウスは実際この点については妙なことを云っている。すなわち彼は云う、吾々はジェスイット僧が結婚や一夫多妻についていろいろなことを書いたのを読んでいるが、しかしアビシニアには結婚というが如きものはない、ということほど確かに断言しうるものはない、と。しかしそれがどうであろうと1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、この国には独身生活を送る女はほとんどまたは全くなく、またそれが乱交によって妨げられる場合の外は生殖力はほとんどその全力を発揮せしめられていることは、明かなようである。しかしながらこの乱交は、ブルウスの記述している風習の状態からすれば、非常に有力に作用しているに違いない2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iii. c. xi. p. 306.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 292.
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 戦争から生ずる人口に対する妨げは法外なものであるように思われる。最近四百年の間、ブルウスによれば、戦争はこの不幸な国を荒廃に委ねることを止めたことはなかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかもその戦争はひどく野蛮に行われるので、この破壊は十倍にもなった。ブルウスがはじめてアビシニアに入国したとき、彼は、到るところに、ラス・マイクルのゴンダアル進軍によって根こそざに破壊された村々を見た2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。彼は曰く、彼がこの国に滞在中の内乱で、『叛徒はまずデムビアを荒廃に帰しはじめており、そして南方から西方に至る平原にある一切の村を焼き払い、それをマイクルとファシル間の沙漠のようしてしまった。………王はしばしばその宮殿の塔の頂上に登り、デムビアにおけるその豊かな村々が焼けているのを見て、不満の極であつた。』と3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。彼はまた他の場所で曰く、『デグウェッサの全地方は完全に破壊された。老若男女の区別なく男も女も子供も全部皆殺しになった。家は地に倒され、その附近の国土は大洪水の後のように荒廃してしまった。王に属する村々も同じく苛酷に荒された。到る処から救を求める叫びが聞えてきたが、誰もあえて救助手段を講ずる者はなかった4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。』アビシニアの一州たるマイッチャにおいては、もしいやしくも老人に会うことがあったらそれは確かに、他国人と見てよいが、けだし一切の原住民は若いうちに槍で死んでしまったから、と彼は聞かされた5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 119.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. vol. iii. c. vii. p. 192.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. vol. iv. c. v. p. 112.
 4)[#「4)」は縦中横] Id. vol. iv. p. 258.
 5)[#「5)」は縦中横] Id. c. i. p. 14.
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 もしブルウスの画いたアビシニアの状態の描写が、少しでも真に近いものとすれば、それは、戦争、流行病、及び乱交が、すべて過度に働いている下でも、人口を生活資料の水準一杯に保持せしめるところの、人口増加の原理の力を、極めて明白に物語るものである。
 アビシニアに隣
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