多くはなかったように思われる。ところがヴォルガの肥沃なステップを占有し、より[#「より」に傍点]平穏な生活をするに至って、その数はまもなく増加し、一六六二年には五万家族に達した1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この時期から一七七一年の移住の時まで、その増加は極めて遅々たるものであったようである。彼らが占有した牧場の面積はおそらく、遥かにより[#「より」に傍点]大なる人口を包容するに足りなかったのであろう。けだしこの地方から彼らが逃れた時に、ロシアの行動に対するチャンの不満だけがその原因なのではなく、彼らの夥だしい家畜にとって牧場が不足だという人民の不満もその原因となっているからである。この当時この種族は、五万五千ないし六万家族であった。この種族がこの奇異な移住において蒙った運命は、おそらく、牧場の不足その他の不満により新しい住所を求めようと企てた他の多くの放浪集団の運命と同じものであった。移住は冬期に行われ、そして多くの者は、この辛い旅行の途上、寒さと飢餓と窮乏とで死んでしまった。一大部分はキルギス人によって殺されるか捕えられ、そしてその目的地に着いた者は、最初のうちは支那人に歓待されたが、後に至って極度の虐待を受けたのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] 〔De'couv.〕 Russ. tom. iii. p. 221. Tooke's View of the Russian Empire, vol. ii. b. ii. p. 30. 急速な増加のもう一つの例は、ロシアから肥沃な定住地を与えられたクリスト教カルマック族の一植民地に現れている。それは一七五四年の八、六九五から一七七一年には一四、〇〇〇に増加していた。(Tooke's View of the Russ. Emp. vol. ii. b. ii. p. 32, 33.
2)[#「2)」は縦中横] Tooke's View of the Russ. Emp. vol. ii. b. ii. p. 29, 30, 31. 〔De'couv.〕 Russ. tom. iii. p. 221.
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この移住以前には、カルマック族の下層階級は非常な貧困と惨苦の中に生活し、栄養を採れるものならどんな動物でも植物でもまたは根でも利用するを常とさせられていたのであった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。彼らは、実に盗んで来たもの以外は、壮健な家畜のどんなものでもほとんど滅多に殺すことはなかった。そして盗んで来たものは、見つかることを恐れて、直ちに飽食してしまった。傷馬や廃馬、または伝染病以外の疾病で死んだ獣類は、最も望ましい食物と考えられた。最も貧しいカルマック族のあるものは、腐敗を極めた肉を喜んで食い、また家畜の糞すらも食った2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。多数の子供は云うまでもなく栄養不良で死亡した3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。冬期には下層階級のすべては寒さと飢餓とに烈しく悩んだ4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。一般的に云って、彼らの羊の三分の一、またはしばしばそれ以上が、冬期に、どれだけ彼らが世話しても死亡した。そして時期おそく雨または雪の後に霜が来て、家畜が草を得られない場合には、彼らの畜群の死亡は一般的となり、そして貧民階級は避くべからざる飢饉に曝されたのである5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] 〔De'couv. Russ. tom. iii. p. 275, 276.〕
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 272, 273, 274.
3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 324.
4)[#「4)」は縦中横] Id. p. 310.
5)[#「5)」は縦中横] Id. p. 270.
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彼らの腐敗した食物と、彼らを取り巻く腐敗した蒸気から主として生ずる悪性熱病、及び疫病《ペスト》の如くに恐れられる天然痘は、時に彼らの人口を稀薄にした1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし大体において、彼らの人口は、その生活資料の限界を著しく緊密に圧迫したのであり、従って欠乏とその欠乏から生ずる疾病とが、彼らの増加に対する主たる妨げと考えられ得よう。
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1)[#「1)」は縦中横] 〔De'couv. Russ. tom. iii. p. 311, 312, 313.〕
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夏期に韃靼を旅行する人は、おそらく、広大なステップが無人のままにあり、そしてそれを消費する家畜がいないので牧草が蓬々《ほうほう》と荒れるに
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