Iわり]
かかる習慣から生ずる生命の濫費は、それだけで彼らの人口を抑圧するに足ることが分る。しかしそれがあらゆる種類の勤労、なかんずく生活資料の増大を目的とするそれに、与える致命的妨げにおいては、それがもたらす影響は更により[#「より」に傍点]大である。一つの井戸、一つの貯水池の建設にすら、ある資金と労働が前もって必要である。そして戦争は一日にして数ヶ月の労作と丸一年の資源を破壊し得よう1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この両害悪は交互に他を作り合うように見える。すなわち生活資料の不足はまずおそらく戦争の習慣を生み出し、そして戦争の習慣は今度は生活資料を狭める有力な働きをするのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxiii. p. 353.
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ある種族は、彼らが住んでいる沙漠の性質から、必然的に牧畜生活に運命づけられているように見える1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし農業に適する土地に住むものも、掠奪的隣人に囲まれている間は、この業を行う気にはほとんどなれない。シリア、ペルシア及びシベリアの辺境地方の農民は、現に、破壊的な敵の不断の侵入に曝されていて、浮浪的韃靼人またはアラビア人から羨まれるような生活はしていない。牧畜状態から農業状態への変化を助勢するには、おそらく、土壌の肥沃なことよりも、ある程度の安固が更により[#「より」に傍点]必要なのである。そしてこの安固が達せられ得ない処では、定住労働者は、放浪生活を送り従って全財産を携帯している者よりも、運命の転変により[#「より」に傍点]多く曝されている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。トルコ人の弱体な、しかも圧制的な政府の下では、農民にとっては、彼らの村落を去って牧畜状態に身を委ね、この状態で支配者たるトルコ人と隣人たるアラビア人の掠奪を免れる能力を増そうと期待するのは、珍しいことではない3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxxiii. p. 350.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 354.
3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 350.
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しかしながら、狩猟民族と同様に牧畜民族についても、もし欠乏だけで習慣が一変し得るものなら、牧畜民族で残存しているものはほとんどないだろうと云い得よう。ベドウィーン・アラビア人は絶えず戦争をしており、またその生活方式の困難から生ずるその増殖に対するその他の妨げがあるにもかかわらず、その人口は、その食物の限界を著しく緊密に圧迫しており、ために彼らは必要上節欲を余儀なくされておるが、この節欲たるや、古くからの不断の習慣がなければ到底人体が支え得ぬ如きものである。ヴォルネエによれば、アラビア人の下層社会は習慣的な窮乏と飢饉の状態に生活している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。沙漠の諸種族はマホメットの宗教が彼らのためにつくられたことを否定する。彼らは曰く『けだし吾々は水のない時にどうして水浴をすることが出来ようか。吾々は富を有たないのにどうして喜捨をすることが出来ようか。また吾々は一年中断食しているのに、どうしてラマダン月の間断食をする機会があり得ようか2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』
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1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxiii. p. 359.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 380.
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チャイクの力と富とは、その種族の数にある。従って彼はそれがいかにして養われ得べきかを考えることなくして、人口の増加を奨励するのを利益と考えている。彼自身の地位は大いに子孫と近親の数の多いことに依存している1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そして一般に力が食物を獲得するという社会状態においては、個々の各家族は家族の人数から力と重要性とを得ることとなる。かかる観念は、有力に、人口増加に対する奨励金たる作用をする。そしてそれは、ほとんど財貨の共有を生じているほどの物惜しみしない精神2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]と相俟って、人口をその極点まで押し進め、そして人民全体を最もはげしい貧困に陥れるのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Voy. de Volney, tom. i. c. xxiii. p. 380.
2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 366.
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一夫多妻の習慣は、戦
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