によってその種の増加へと駆り立てられる。そしてこの本能はその子孫の養育に関する疑惑によって妨げられることはない。従って、自由のあるところ常に増加力は発揮される。そして過剰な結果は、後に至って、余地と養分との不足によって抑圧される(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕最後の部分は第二版では次の如くなっている、――
『そして過剰な結果は、後に至って、余地と養分との不足によって抑圧されるが、これは植物と動物に共通なことであり、また動物にあっては、相互の餌となることによって抑圧される。』
 なお第一版では、この全パラグラフは、『植物と動物においては』の語にはじまり、『養育に関する疑惑』が『養育に関する推理または疑惑』とあって、以下第二版の形のままとなっており、更に第二版以下のこのパラグラフの頭と共に、場所がここからはずっと離れて、現われている。1st ed., ch. II. pp. 27−28. そしてこの次のパラグラフに該当するところには、ただ次の如くあるに過ぎない。
『植物と動物にあっては、その結果は、種子の濫費、疾病及び早死である。人類にあっては窮乏及び罪悪である。前者たる窮乏はその絶対に必然的な帰結である。罪悪は著しく蓋然的な帰結である、従って吾々はそれが大いに瀰漫《びまん》しているのを見るのであるが、しかしおそらくこれを絶対に必然的な帰結と呼んではならぬであろう。道徳上の苛責は害悪へのあらゆる誘惑に抗するにある。』1st ed., pp. 15−16,
[#ここで字下げ終わり]
 この妨げの人間に与える影響はもっと複雑である。等しく有力な本能によってその種の増加へと駆り立てられるが、理性はその進行を妨げ、そして彼に、生活資料を与え得ない者を世に生み出しているのではないか、と訊ねる。もし彼がこの自然の示唆に耳を傾けるならば、この抑制は余りにもしばしば罪悪を生み出す。もしこの示唆を聞かぬならば、人類の種は不断に生活資料以上に増加しようと努めていることになろう。しかし、食物をして人間の生活に必要ならしめるところのわが天性の法則によって、人口はそれを養い得る最低の養分以上に実際に増加することは決して出来ないのであるから、食物獲得の困難から生ずる人口に対する強力な妨げが不断に作用していなければならない。この困難はどこかに落ちて来なければならず、そして必然的に人類の大きな部分によって、何らかの形の窮乏または窮乏の恐怖として、痛烈に感ぜられなければならない(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕このパラグラフの後半は 1st ed., p. 14. の各所からの書き集めである。
[#ここで字下げ終わり]
 人口が生活資料以上に増加せんとするこの不断の傾向を有つこと、及びそれがこれら諸原因によってその自然的水準に抑止されていることは、人類が経過した種々なる社会状態を概観すれば十分わかるであろう。しかし、この概観へと進むに先立って、もしそれが完全に自由に働くがままに委ねられていたら人工の自然的増加はどんなものであろうか、また人類勤労の最適事情の下における土地の生産物の増加率はどのくらいが期待出来るかを、確かめようとする方が、おそらくこの問題をはっきり理解するに都合よいであろう(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕第二版にはこれに続いて次の一文がある。
『これら二つの増加率を比較すれば、吾々は、上述せる生活資料以上に増加せんとする人口の傾向の力を判断し得るであろう。』
[#ここで字下げ終わり]
 行状は極めて純潔簡素であり、生活資料は極めて豊富であり、ために、一家を養う困難から生ずる早婚に対する妨げが何も存在したことはなく、また悪習や都市や不健康な職業や過労によって人類の種の浪費が生じたこともない国は、今まで知られていないことが、認められるであろう。従って、吾々の知るいかなる状態においても、人口の力が完全に自由に働くがままに委ねられたことはないのである。
 結婚に関する法律が制定されていようが、いまいが、自然と道徳との教えるところは、年早く一人の婦人に愛着することであるように思われる。そしてかかる愛着の結果たるべき結婚に対し、いかなる種類の妨害もなく、そしてその後に至って人口減退の原因もないならば、人類の増加は明かに、今まで知られているいかなる増加よりも遥かにより[#「より」に傍点]大であろう(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕以上の二つのパラグラフは 1st ed., pp. 18−19. に、これとほぼ一致する記述がある。
[#ここで字下げ終わり]
 生活資料はヨオロッパの近代諸国のいずれよりもより[#「より」に傍点]十分であり、人民の行状はより[#「より」に傍点]純潔であり、そして早婚に対する妨げはより[#「より
前へ 次へ
全98ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マルサス トマス・ロバート の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング