で人命が失われた場合には、おそらく同じ結果を生み出す傾向があろう。ニイブウルは、一夫多妻はその分家の多くが最も悲惨な窮乏に沈淪するまで、家族を増殖させると云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。マホメットの子孫は東方全体に亙って極めて多数に見出されるが、その多くは極貧の中にある。囘教徒は、人間の最大の義務の一つは造物主に栄光あらしめるため子供を産むにあるとするその予言者の教えを遵奉して、ある程度まで一夫多妻を余儀なくされている。幸にも、他の多くの場合と同様に、個人的利害がある程度立法者の不合理を是正している。そして貧乏なアラビア人は彼れの信仰をその資産の貧しさに比例せしめるを余儀なくされている。しかしなお、人口増加に対する直接的奨励は異常に大であり、そしてかかる奨励の無効であり、不合理であることは、これら諸国の現状が最も雄弁にこれを物語っている。彼らの人口が以前より少なくないとしても、疑いもなく多くはないことはあまねく認められているところであり、そしてこのことの直接の結果として、ある家族の大きな増加は、他の家族を絶対に滅してしまったのだ、ということになる。ギボンはアラビアを論じて曰く、『人口の尺度は生活資料によって左右される。この広大な半島の住民は、数において、肥沃な勤勉な一州の住民に及ばなくなることもあろう2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』結婚に対する奨励がいかなるものであろうと、この尺度を超えることは出来ない。アラビア人が現在の風習を保持し、そしてこの国が現在の耕作状態に止まる間は、十人の子供を有つあらゆる者に楽園の約束をしたところで、それらは彼らの窮乏は大いに増加しはしようが、彼らの人口を増加することはほとんどないであろう。人口に対する直接的奨励は、かかる風習を変化し耕作を促進する傾向を全然有たない。実際おそらくそれは反対の傾向を有つ。けだしそれがもたらす貧困と欠乏から生ずる不断の不安は、掠奪的精神を奨励し3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、戦争の機会を増加するに違いないからである。
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1)[#「1)」は縦中横] Niebuhr's Travels, vol. ii. c. v. p. 207.
2)[#「2)」は縦中横] かくまで多数の著者が述べかつ認めているかくも重要な真理が、その帰結まで滅多につきつめられた
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