ナも特異な興味ある部分のあるものは、全然手がつけられていないか、またはほんのちょっと論じてあるだけである。人口が常に生活資料の水準に抑止されなければならぬということは、明確に述べてあるけれども、しかしこの水準が実現される色々な仕方を研究したものはほとんどなく、そしてこの原理は十分にその帰結まで追及されたこともなければ、それが社会に及ぼす影響を厳重に検討すればわかって来ると思われる実際的推論を、それから引き出してもいないのである(訳註)。
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〔訳註〕同様なことは、既に第一版序言中の第三パラグラフにおいて、ただしもっと強硬な形で、述べられている。
[#ここで字下げ終わり]
従ってかかる点が、私が以下の『人口論』において最も詳細に取扱った点である。現在の形ではこれは新著と考えてよく、そしてまた私はおそらく、本書に残っている旧著の若干部分を除いてしまって新著として出版してもよかったのであるが、絶えず他の書を参照するの不便を思い、むしろ全一体として纒《まと》めることを考えて、この形としたのである。だから私は第一版の購買者に何もわびる必要はないと信じている。
この問題をかねて理解していたか、または第一版を熟読してそれがはっきりわかった人々にとっては、私がそのある部分を余りにも縷説し過ぎ、また不必要な反覆の罪を犯しているように見えることを、恐れる。こうした欠陥は一部分は不手ぎわから起ったものであるが、また一部分は意識的なものである。多数の国の社会状態から類似の推論を導くに当って、私にはある程度反覆を避けるのが非常に困難であった。またこの研究の中、吾々の通常の思考習慣とは異る結論に導くでは、私には、確信を生み出そうというわずかでもの希望をもって、異る時、異る機会にこれを読者の心に提示するのが必要であるように思われた。私は、より[#「より」に傍点]広汎な読者に印象を与えるためには、文体を飾ろうなどということは一切喜んで犠牲にしようと思った。
ここに展開された原理は議論の余地なきものであるから、従って、もし単に概観だけに論点を限ったならば、私は難攻不落の城塞に身を固めることが出来たであろうし、そして本書は、そうした形の方が、おそらく遥かに堂に入ったらしい外貌を有ったことであろう。しかしかかる概観は、抽象的真理を進めるには役立つであろうが、何等かの実際的善を促進する傾向はほとんどないのである。そして私が、それから必然的に生ずると思われる帰結――かかる帰結なるものが何であろうとも――のいずれかを考察することを拒否するならば、私はこの問題を正当に取扱わず、またそれを正しく論議したことにはならぬ、と考えたのである。しかしながら、この案をとったので、私は多くの反対論と、またおそらくは極めて激しい批判とに、門戸を開くことになったのに、気がついている。しかし私は、私が犯しているかもしれぬ誤謬ですら、議論の手がかりとより[#「より」に傍点]以上の検討の刺戟とを与えるであろうから、社会の幸福とこれほど密接な関係を有つ問題をより[#「より」に傍点]以上一般の注目をひくようにするという、重要な目的に役立つであろうと考えて、ひそかになぐさめているのである。
本書の全体を通じて私は、原理において、前著とは、罪悪と窮乏のいずれの部類にも入らない人口に対するもう一つの妨げの作用を想定する点で、意見を異にした。そして本書の終りの部分で、私は、『人口論』第一版の最も苛酷な結論のあるものを緩和せんと努めた。このことをなすに当って、私は、正しい推理の原理を破らず、また過去の経験によって確証されない蓋然的社会進歩に関する何らかの意見を表明しはしなかったと、希望する。人口に対する妨げはそれがいかなるものであろうと、それはそれが除去せんとする害悪よりも悪いものだと、なお考えるものには、前版『人口論』の結論が依然十全の力を有つであろう。そしてもし吾々がこの意見を採用するならば、吾々は、社会の下層階級の間に広く存在する貧困と窮乏とは絶対的に救治し難いものであると、認めざるを得ないであろう。
私は本書の中に掲げてある事実や計算については誤りを避けるよう、出来るだけの努力をした。それでもなおそのあるものが誤りであることがわかったとしても、読者はそれが一般的論述に本質的には影響を及ぼすものではないことを、認めるであろう。
問題の第一部門を例証するに当って現れた山なす資料の中から、私は最良のものを選んだとか、またはそれを最も明晰な方法で配列したとか云って、誇る気は少しもない。道徳的政治的問題に興味を有つ人々には、この問題の新奇さと重要性とが、その取扱の不完全を補ってくれることを、希望する。
ロンドンにて
一八〇三年六月八日
[#改ページ]
第三版前書(訳註――第三、四両版のみに掲載)
この版の主たる変更は次の如くである。
第二篇の第四章及び第六章となっていた章は、記録簿の資料から結婚の出産性と結婚まで生存する産児の数とを測定せんとする際に著者が誤りを犯していたので、ほとんど書き改めた。そこでこれらの章はその内容が前版ではそのすぐ前の諸章と続いていたが今度はそうではなくなったので、この篇の後ろの方に移すこととし、第九章と第十章とにすることとした。
同篇の中『英蘭における人口に対する妨げ』を取扱う章には、前世紀を通じて出生の比例はほとんど均一であったと考えることが正しくなく、従ってかかる論拠に基いて異る時期の人口を測定するのが正しくないことを証示するために、一記述を加えてある。
第三篇第五章には、一時的の困窮期には貧民を扶助するのが得策でもあれば義務でもあることを論じた一文を挿入した。また同篇の第七、八、九、十の諸章では章句を削除したり挿入したりした。これは穀物輸出奨励金を取扱う第十章において特に甚だしいが、けだしこの問題は現在重要性を有し、最近大いに論ぜられているからのことである。
第四篇第六章では一章句を削除し、善政が貧困を減少するの結果を論じた一章句を加えた。
同篇の第七章では一章句が削除された。また第八章では既婚者と未婚者との比較を論じたかなりに長い章句を削除し、そして吾々は道徳的抑制の義務を説いてはいるものの結婚が望ましいものなることを軽視してはならぬことを述べた一文を加えた。
最も顕著なる変更は以上の如くである。その他は単に誤解を防ぐために少数の用語上の訂正を試み、ここかしこに短い章句や説明用の註を加えただけである。この種の小さな訂正は主として最初の二箇章に行われている。
上述の変更は本書の原理に影響を及ぼすものではなく、従って四折版(訳註)の価値を本質的に減ずるものではないことを、読者は見るであろう。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕第二版を指す。
[#ここで字下げ終わり]
附録には『人口論』に対する主要反対論への答弁が収められている。そして前版の購買者の便宜上これは四折で印刷の上別個に手に入れることが出来る(訳註)。本書の全体を読了する余暇や気持のない人々は、この附録を見れば、本書の中心的な論点を知り得てもって全体の目的と傾向とをほぼ知ることが出来るであろう。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
〔訳註〕これは次の形で出版された。
Malthus, Reply to the chief Objections which have been urged against the Essay on the Principle of Population. Published in an Appendix to the third Edition. London 1806.
[#ここで字下げ終わり]
上下両巻をなるべく同じ大きさにするために印刷者の方で両巻の『索引』を第一巻の終りの方に附することとした。『附録』と『索引』とがこんなに長くなろうとは初めは分らなかったが、もし分っていたら両巻をもっと都合よく分割したことであろう。
[#改ページ]
第五版序言(訳註――第五、六両版に掲載)
この『人口論』は、大戦争があり同時に特殊の事情によって外国貿易が極めて栄えた時期に、はじめて公刊された。
従って本書は人間に対し異常な需要があり、人口過剰から何等かの害悪が生ずる可能があるとはほとんど考えられない時に、公衆の前に現れた訳である。こういう不利益があったのであるから、その成功は合理的に期待され得べかりし程度以上のものであった。従って、その次の時期はこれと種類を異にして最も著しくその原理を例証しその結論を確証した時期となったが、この時期には本書はその興味を失わないものと考えられ得よう。
従って、問題の性質は永久的興味を有し将来それには多くの注意を払われるであろうと考えらるべきものであるから、私としては、その後の経験と知識とによって私が知り得た本書の誤りを正し、かつ本書を改善しその有用性を一層大ならしめる如き増補や変更を加えざるを得ないのである。
この問題の前半についてもっと多くの歴史的例証を加えるということならば容易なことであったであろう。しかし私が前に述べた如くに、各特定の妨げが自然増加力を各々どれだけ破壊するかを確証すべき十分正確な記述はやはり得ることが出来ないので、手に入れ得る唯一種類の極めて豊富にある証拠から私が前に得た結論は、全く同じ種類の証拠をもっと集めてみた所でその力を加えるものではないように私には思われた。
従って最初の二篇では増補はフランスに関する新らしい一章と英蘭に関する一章とだけであり、これは主として前版の公刊後に生じた事実に関するものである。
第三篇では『貧民法』に関する一章を加えた。そして『農業及び商業主義』を論ずる章と『富の増加が貧民に及ぼす結果』を論ずる章とは適当に整えられてもいなければまた主題にすぐ適用することも出来ないように思われ、その上私は『輸出奨励金』を論ずる章で若干の変更を試み、『輸入禁止』の問題に関して若干附加しようと思ったので、これ等の章を書き改めることとした。これ等はこの版では第八、九、十、十一、十二、十三の諸章となっている。更に同篇の最後の第十四章には新らしい名前を附して二三の章句を附加した。
第四篇では私は『貧困の主要原因に関する知識が政治的自由に及ぼす諸影響』と題する章に新らしい一章を加え、また『貧民を改善する種々なる企劃』を論ずる章にも一章を加えた。また私は『附録』にもかなりの増補を試み、前版以後に現れた『人口原理』を論ずる二、三の論者の論作に答弁を与えた。
この版で行われた主たる増補と変更とは以上の如くである。これは大部分『人口論』の一般諸原理を現在の事態に適用したものである。
前の諸版の購買者の便宜のために、以上の増補と変更は別冊で公刊することとする(訳註)。
一八一七年六月七日
東印度大学において
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
〔訳註〕これは次の形で出版された。
Malthus, Additions to the fourth and former Editions of an Essay on the Principle of Population, &c. &c. London 1817.
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
第六版前書
一八二六年一月二日
この版で行った増補は主として、一八一七年にこの前の版が現れて以後新らしい人口調査や出生、死亡及び結婚の記録簿が現れた国の人口の状態に関し、記録や推論を若干加えた点にある。それは主として英蘭、フランス、スウェーデン、ロシア、プロシア、及びアメリカに関するものであり、従ってこれら諸国の人口を取扱う章に現れている。『結婚の出産性』を論ずる章では表を一つ加えたが(第一巻四九八頁)(訳註1)、これは現在若干の国で行われている十年ごとの人口調査の中間期の人口増加百分比率からその倍加期間ま
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