人口論
AN ESSAY ON THE PRINCIPLE OF POPULATION
訳序/凡例/解説/序言/前書
トマス・ロバト・マルサス Thomas Robert Malthus
吉田秀夫訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)飜《ひるがえ》して

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(例)※[#ローマ数字1、1−13−21]

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)〔Marie Jean Antoine Nicolas Caritat, Marquis de Condorcet ; Esquisse d'un Tableau Historique des Progre`s de l'Esprit Humaine. L'An III de la Re'publique.〕
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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        訳序

 マルサス『人口論』の第一版と第二版との間に大きな差異があることは、どの本にも書いてあり誰でも知っている。しかしその第二版以後がどうかということになると、余りはっきりしていないようである。しかし実際は、『人口論』はマルサスの生きている間に六版を重ねており、その各々にはいずれも訂正または増補が行われているのであって、同一の版本は一つもないのである。もちろん第二版の訂正増補が最大であるが、これに次いでは第三版及び第五版のそれである。そして第四版及び第六版はその各々の前の版の再刻と普通には称せられているが、それでさえ実は修正が加えられているのである。
 これらの訂正ないし増補の跡を辿ることは、単にペダンティックな趣味のためであるならば、実に下らないことである。しかしながら実は、マルサスの『人口論』は、経済学に関する理論的著述であるよりはむしろ階級的利益の代弁書である。そしてこのことは、代弁せらるべき利益の情勢の変化につれて代弁理論が刻々と前後撞着的に変化してゆくことに最もよく露呈されるのである。この意味で、『人口論』こそは、そのある版本だけを読了しそれだけで理解の行く本ではなく、ぜひともその各版本を比較読了しなければならぬのである。
 しかしながら、それだからと云って、六種の版本について格別に六種の訳本を出すことは無用の業である。したがって私は、ただ一つの訳本でしかも前後六版の変化が辿れるような飜訳をしてみたいと、前から考えていた。しかし各版の文句を噛み合せるという形(私がマルサスの『経済学原理』の岩波文庫版で試みた形)ではこれは到底行い難い。けだし各版の差異が大である上に、本が六種にも及ぶので、無理にこれを実行してみたところで煩わしくて読めるものではないからである。
 そこで今囘再建春秋社によって機会が与えられたので、とにかく本文については一応第六版を基礎とし、これになるべく読む邪魔にならぬような形で細字で訳者註を加えて、各版の差異を現すこととした。読み方については別記『凡例』を参照せられたく、また『人口論』の階級的本質その他については『解説』を参照せられたい。
 最後に一言すれば、私はかつてこの試みを少しやりかけたのであるが、それは戦争のために抛棄せざるを得なくなった。従って今囘はこれを改めてはじめからやり直したのであるが、それにもかかわらず当時の試みに関する御配慮につき堀經夫博士にここに謝意を表したい。また今日の試みに当っては美濃口時次郎教授及び東京商大図書館の御配慮によって希覯図書を接見するの便宜を与えられた。併せて感謝の意を表する。なお春秋社の瀬藤五郎及び鷲尾貢の両氏、並びに原稿整理その他各般の事務につき多大の便宜と助力とを与えられた高橋元治郎氏及び高橋一子君にも厚く謝意を表したい。
   一九四八年六月
[#地から9字上げ]大久保にて
[#地から5字上げ]訳者
[#改ページ]

       凡例

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一、本訳書はマルサス『人口論』の第六版を全訳し、これに加えて、第一―第五版にこれと異る記述がある場合、その他関連的記述のある場合、その重要なものを対照附記したものである。
二、第六版の本文の全文は大きな文字で印刷し、その他の部分は訳註として小さな文字で印刷されている。
三、従って、第六版を通読しようと思う人は、訳註を飛ばして、大きな文字で印刷されているところだけを通読されたい。
四、第一―第六版のいずれをとっても同一の版本は一つもない。しかしその差異の全部を表わすことは、いたずらに煩わしくなるだけである
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