最も強い障害があると考えられるのである。著者は、この興味ある問題を論ずるに当って、著者が動かされているのは真理の愛好の念のみであり、ある特定の人々や意見に対抗せんとする偏見ではないことが、わかってもらいたいと思う。著者は、社会の将来の改善に関する若干の見解を、それが幻想であればよいがという気持とはおよそ遠い気持で読んでみたが、しかし、著者をして、自分の希望するものは証拠がなくとも信じ、または好ましくないものは証拠があっても賛成を拒否し得せしめるほどの、悟性の支配力を得はしなかったということを、告白せざるを得ない。
著者の人生観は陰鬱な色をもっている。しかし著者は、かかる暗い色を画いたのはそれが絵画の真実であると確信するからなのであり、色眼鏡や持ち前の気まぐれによるものではないことを、意識している。著者が最後の二章で素描した精神説は、人生の多くの害悪の存在に対する説明として、自ら満足に思うものである。しかしそれが他の者にも同じ効果を有つか否かは、これを読者の判断に委ねなければならない。
もしも著者が、社会の改善の途上に横たわる主たる困難と考えるところのものに、より[#「より」に傍点]有能な人々の注意を惹くことが出来、その結果として、この困難が、たとえ理論上だけでも、除去されたことを見得たならば、著者は喜んで現に懐いている意見を撤囘し、そしてその誤謬を知って歓喜するであろう。
一七九八年六月七日
[#改ページ]
第二版序言(訳註――第二―六版の全部に掲載)
私が一七九八年に著した『人口原理論』は、序言に断っておいたように、ゴドウィン氏の『研究者』の中にある一論に示唆されて出来たものである。それは、時興にうながされて書かれたものであり、当時辺鄙なところにいて手に入れ得た少数の資料によって書かれたものである。私が該書の主論点をなす原理を演繹して来た著作の著者は、ヒュウム、ウォレイス、アダム・スミス及びプライス博士(訳註)だけであり、そして私の目的は、これを適用し、そして、当時公衆の注意をかなり刺戟していた人類及び社会の可完全化性に関する諸々の推論が本当かどうかを検討してみるにあった。
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〔訳註〕これはおそらく次を指すものであろう。
David Hume, Of the Populousness of ancient Nations. (Political Discourses. Edinburgh 1752: −−−− Discourse X.)
Robert Wallace, Various Prospects of Mankind, Nature, and Providence. 1761.
Adam Smith, An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations. 1776.
Richard Price, Observations on Reversionary Payments, etc. London 1771 ; 2nd ed., 1772 ; 3rd ed., 1773 ; 4th ed., 1783 ; etc.
[#ここで字下げ終わり]
論議を進めていく中《うち》に、私は当然に、この原理が現存社会状態に及ぼしている影響を、いささか検討してみるようになった。あらゆる国民の下層階級に見られる貧困と窮乏と、及び上流階級が何度彼らを救済しようと努力しても失敗する事実とは、これによるもののように思われた。こういう風に私がこの問題を考えれば考えるほど、それはいよいよ重大性を帯びるように見えた。そしてかかる考察は、『人口論』がかなり公衆の注意を刺戟した事実と相俟って、私をして、この問題をもっと一般的に例証し、かつそれを現実の事態に適用して経験上誤りないと思われる推論をそれから下すことによって、これにもっと実際的な永久的な興味を与えることが出来ようという気持で、私の暇の際の読書を、人口原理が過去及び現在の社会状態に対して及ぼした影響を歴史的に検討することに、向ける決心をさせたのである。
この研究をしている中に、私には、『人口論』をはじめて著した時に知っていたよりも遥かに多くのことが、今までになされていることが、わかった。既に早くプラトン及びアリストテレエスの時代に、人口の過急の増加から生ずる貧困と窮乏とは明確に認められ、また最も乱暴な救治策が提案されていた。そして近年では、、この問題は、それがもっと公衆の注意を刺戟しなかったのが、当然に変だと思われるくらいに十分に、フランスのエコノミストのある者や、時にはモンテスキウや、また我国の著者の中では、フランクリン博士、サア・ジェイムズ・スチ
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