。は多からぬものである。
 かかる時に、また、人類の『不定限の可完全化性』を主張するコンドルセエの楽観的思想1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]が、フランスから海を越えて渡って来た。彼れの思想は一種の歴史観を基調とするものである。すなわち彼によれば、人類の歴史は将来をも含めて十段階に分たれ得るものであり、この第九段階と第十段階とを分つものがフランス共和囲の成立である。しからばこの時から始まる第十段階においてはいかなる見通しがなされるかというに、国民間の不平等の消滅、同一国民内の不平等の消滅、及び人類の真の完成、の三つがそれである。そして科学や文明の進歩を見、人類の精神とその能力とを検討するならば、この三つは果てしなく実現されるであろうと考えられる。――しかしながら、その際には、ゴドウィンの頭にも浮かんだところの、人口の増加による終局的困難が生じないであろうか、という疑問は、また彼れの頭にも浮かんだものであった。これに対して彼もまた、時は遠いと答える。しかし彼もまた、これではその時が到着した時に対する真の解答にはならぬことに気附いて、その時には産児調節の手段に出ずべきことを説いている。かくて彼は、かくの如き完全化の進行によって、終に人類は不死になるに至るものとさえ、考えているのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] 〔Marie Jean Antoine Nicolas Caritat, Marquis de Condorcet ; Esquisse d'un Tableau Historique des Progre`s de l'Esprit Humaine. L'An III de la Re'publique.〕
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 かくの如き社会の将来に関して相次いで現れた楽観的見解を否定し、よってもってフランス革命により生じた一種の狂熱状態を沈静せしめるの役割を演じたのが、外ならぬマルサス『人口論』第一版である。
        二
 マルサスの『人口論』第一版は、匿名の下に、一七九八年に現れたのであるが、これに先立って一七九六年、彼は公刊の目的をもって、フランス革命に影響されて混沌たる状態にある時勢を論じた一つのパンフレット1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]を書いた。これは終に公刊されずに終ったが、しかし吾々はエンプスンが後に試みた引用と紹介2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]とによってその大略を知ることが出来る。
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 1)[#「1)」は縦中横] これは次の如く名附けられるはずであった、―― The Crisis, a View of the Present Interesting State of Great Britain, by a Friend to the Consitution.
 2)[#「2)」は縦中横] Edinburgh Review for Jan., 1837. "Art. IX. Principles of Political Economy considered with a View to their Practical Application. …… etc." by Empson.
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 エンプスンによれば、このパンフレットは、政治論、宗教論、及び経済論の三部分に分たれているのであるが、これを一読すれば、マルサスがこれによって擁護せんとしたものが、いわゆる地主階級及び中流階級であり、すなわちラディカルズによって最も攻撃されたところの政治組織の担当者たる特権階級であったことが、わかるのである。
 このパンフレットは出版書肆の拒絶によって日の眼を見ないでしまったが、それに次いで彼が一七九八年に著した『人口論』こそは、彼を一躍時代の寵児たらしめたものである。
『人口論』を誘発するに至った直接的動機は、その序言に明かな如くに、ゴドウィンの著『研究者』の中に収められた『貪慾と浪費』なる論文について、彼がその一友――実はその父ダニエル・マルサス――と交わした会話にある。しかるにこの会話は社会の将来の改善に関する一般的問題へと移行して行った。そしてこの一般的問題に関するマルサスの見解をまとめたものが、『人口論』第一版なのである。
 ここにマルサスのいわゆる一般的問題とは、人類はこれから加速度的に限りなき進歩をなして行くものであるか、または幸福に達すれば再び窮乏に沈淪しこの窮乏がまたも次の幸福の出発点となるというふうに永久の擺動《はいどう》(オシレイション――マルサスはこの語そのものもその観念もこれをコンドルセエから得て来たもののように思われる)に運命づけられていなければならぬのであるか、ということである。そしてマルサス
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