広告を出したから、市内の砂糖商は驚いた。これは明らかに角砂糖を囮にしたものであって、たとえ原価を二銭も切って角砂糖では損をしても『安いぞ』という印象で砂糖に釣られて他の商品がよく売れるから、損はただちに埋め合わされ、かえって幾倍かの利益を見ることが出来る。百貨店のこの計画はたちまち砂糖店の問題となった。中元売出しを目の前にしてたくさん仕入れた砂糖が、これでは客を百貨店に取られて、どこもみな品を持ち越さねばならない。そこで砂糖店側では組合長の宅に集まって、善後策を相談した。その結果組合長が電話で製造会社に問い合わせて、会社がその百貨店に売り渡した数量は二十五斤入り三千箱一万五千円であることを確かめ、一同はただちにつれ立ってその百貨店に行き、売場に積み上げてある七百箱を買い取り、さらに一千箱の予約註文を出した。先方は狼狽した。こう大量に引き上げられては無益に千余円の損失を見るわけだ。さすがに砂糖商の苦肉の策と察してただちに陳謝し、囮の特価販売を中止する代りに、砂糖店側でも一千箱の予約註文だけは取り消してもらいたいと頼んだ。砂糖店の方でも百貨店をいじめるのが目的ではなく、やむを得ずこの挙に出
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