銭足らず」ということがあるが、諸君が独立して新たに店を持つか製造を始めるかすれば、一度はきまってこの経験をするであろう。勘定合って銭足らず、計算が判然せぬようでは何をしても失敗するにきまっている。元来勘定の結果と金銭の高とは必ず一致すべきはずであるのにそれが合わないとすれば、計算が粗雑である種の経費の損耗を見落しているとせねばならぬ。また知らぬ間に盗まれたか失ったか、その辺のところも注意せねばなるまい。ここに参考として自分の見た二三の実例をあげて見よう。
これまで職長として百円位の月給を取っていた者が独立して店を持つ時、当人はもとより、周囲の者も口を揃えていうことだが、店を持って自分が働けば職長を雇わなくても済む、職長の月給の百円だけは経費の中から助かるから製品を一段と安価に提供することが出来てそれだけでも、もう前途有望のわけだと。
これは自分が月給を取っていた者として一度思いこむことであるが、実はこのくらい甚だしい認識不足はないのである。自分が単に職長として主家から俸給を受けていた時は生活もその範囲内で済み、またぜひともそれで賄わねばならなかったのであるが、自身主人となって一つの
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