ば部下は不平を起すにきまっています。その結果は職場の能率が低下し、製品の出来栄えも落ちて、ついには職長が地位を失うことになる。まことに困ったことだが、世間にはそういう例が少なくない。しかし何故職長が秘伝を惜しむか、これには主人も大いに責任を負わねばなりません。
 それは何故かというと、職長が技術を残らず伝授して、部下がだいたいそれをのみこみ、ほぼ代理が出来るようになると、主人は高給を惜しんで職長を解雇し、給料の安い若い者に代らせるという例が世間に実に多いのです。職長もそんな目に遭っては大変だから、自分の地位を守るために部下に対しては内々気の毒に思いながらも、仕事の一部を秘密にして、後進の道を塞がざるを得ないのであって、考えて見るとこれも気の毒な話であります。諸君が将来そういう勝手な主人になってはならぬこと、これはもう言うまでもないが、職長となって部下を率いる場合にも、技術を教えしぶるようではならない。主人は職長の地位を保証して、懸念なく指導者としての働きをさせるようにし、職長は安心して親切に後進を導き、部下はその教え子として職長を敬愛し信頼して修業を積む、そうあってこそ互いにその職分に
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