れ等の工場では相当大きな利益の上る時でも、一方にはまだまだ多くの失業者があって、働く人を安く雇うことが出来るために、部下の待遇を少しも改善せず、ますます主人のみ利益をあげて行く、というようなところがあるようですが、そういうやり方は決して部下を得るものではないのであります。我々菓子屋の方にもそれがありまして、日本菓子の職人というと、とうてい生活して行けそうもない薄給しか与えられない習慣になっております。もとより主人側の好都合でありますから、相当利益のある店でもこの昔からの習慣を改めないのでありまして、職人はそれではくらして行かれませんから、やむを得ず砂糖や玉子、また製品をひそかに持出したり、あるいは原料問屋から心付を強請したりするのであります。主人ももちろんこれは感づいていまして、それゆえなおさら高給ということを致しません。品物をぬかれるものとむしろはじめから見込んでおくのであります。これでは職人も悪いと思いながらも、ますます盗み出しの必要を感ずるということになります。無論かような対立的の態度でありますから、仕事の成績はよろしくなるはずはありません。
 この事情に関して少々手前味噌のよう
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