ざいませんが、実はあのお屋敷によって毎朝その日その日の御用を伺いますのに、非常に手間がかかって困るのでございます。まず係の勝手女中より中働きに達し、奥女中を経てお上(近来俄分限や勿体ぶる官吏の家庭にては女中や下男をして御前あるいはお上と呼ばせる)に御用を伺って来るために、早くも三四十分、おそい時は一時間ないし一時間半待たされる、しかし多少とも御用のある時はよろしゅう[#「よろしゅう」は底本では「よろしう」]ございますが、待った上でないといわれた時は実に泣きたくなります。雪風の寒い日にも火一つない土間にぶるぶる慄えながら印袢天一枚で一時間も待たされては実にやりきれません。これは私どもの忍耐の足りないところと致しましても、そのために他のお得意廻りが遅れて、よそ様へ不都合になり、その上店に帰ると御主人からはちと手間が取れ過ぎるとお叱りを蒙ることとなります。実にこんな時は頭の中がムシャクシャして、狂人のようになることがございます。また支払日など弁当持参で半日以上もお屋敷一軒のために費さなければ御勘定が頂けないのです。そういう時も他の掛取りが時間が後れて取れないため、私どもが途中で油を売っていた
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