もを、一週間に幾回ずつか必ず行商に出してやることにきめている。彼らは初めは思い悩んで、この行商を苦にする風があったが、よく職人と商人の区別を説ききかせ、強いて行商に出してやる習慣をつけたが、いまではよほど興味をもって勇んで出て行くようになった。

    主人と雇人の食物

 近来主人の食物と雇人の食物の区別について相当考えている人もあるようであるが、ここに心づかれたのは至極結構のことである。しかし我々から言えばこの問題を改めて考え、しかも何らかそこに矛盾を感ずるなどは、了解に苦しむところである。
 人はいう。主人は一家の最上の地位にあるもの、また義務責任も重大であるから、従って心遣いも多く、ゆえに三度の食物も他の家人よりは滋養に富むものを採らなければならないと。それで妻君はことさらに夫のために毎夜酒肴を備え、歓待至らざるなしの有様であるが、これは一つの口実に過ぎず、主人とともに妻子も美味をとるのである。
 自分は新来の女中に奥のおかずは何に致しましょうと、奇怪な問をたびたび受けた。また出入りの八百屋、魚屋は初めはことさらに、これは奥のもの、これはお勝手向き、と区別をつけて、その日の用
前へ 次へ
全330ページ中315ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング