よりも非常に多忙で気ぜわしいので、少しくらい安価の店があっても、ただ単に価が安いだけでわざわざまわり道して貴重な時間を費すことはしないからである。かつ東京人は精良品を好むがゆえに、安価品は不良品ならんと疑い、かえって高価の店に行く傾きがある。たとえば当店にては鷲印のコンデンスミルクを二十八銭で売っている。しかるに有名なるある薬店では三十四銭で売っているが、やはり相応に売れている。この辺の事情は実に地方と趣きを異にする所である。

    交通機関と大商店の発達

 まだ汽車電車の開通しなかった昔は、いわゆる二里に一宿とて、その要所要所に宿場を設け、その周囲近郊の人々の用務の大部分はすなわちこの小中心において便ぜられたものであるが、汽車の開通とともに、二十里以内の宿場々々は都会にのみ了せられた如く、東京市中まま宿場に等しき小中心を、一区内に少なくも一カ所以上は現存しつつある。すなわち牛込区神楽坂、糀町の糀町通り、神田の小川町、浅草の雷門、蔵前、本郷の四丁目における如く、小中心点があって、その付近は各種の商店櫛比して、あらゆる設備をなし、互いに繁栄を競いつつある。しかるに電車という交通機関
前へ 次へ
全330ページ中287ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 愛蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング