見た目の新しい菓子を製造し、そして儲けたものだ。ところがまたそれにも競争者が現れるといった具合で年中セリ合って闘っている。その内に百貨店の方では製造方法などスッカリのみこんで、いつの間にか自営工場を作ってしまった。そうなると今まで品物を入れていた甲も乙も立ち行かなくなってしまった。これなども菓子の小売店としての将来性にめざめないで一時の利益に眩惑していたからだと思う。
 かつて私の店でもあるデパートへ菓子を入れていたことがあったが、ある事情で断然やめてしまった。それというのはデパートではお菓子の売れ残りは返品としてよこす習慣があるが、ちょうど私のところへもロシヤのチョコレートを入れて欲しいという交渉を受けた。私は商品の性質上返品は一切しないという条件ならば応じましょうと返事してやった。先方はそれは困るということであったが、それなら止めるばかりだとこちらが強硬に出たので、特別ということで返品なしの契約で取引を開始した。そうして毎月千数百円を売って貰った。ところがそれから半月ほど経って、二ヶ月ほども売れずにいた七円五十銭だかの折を返品してよこした(中村屋の菓子の容器には製造日付がある)。そ
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