舎人にとりては至極もっとものようなれど、商店の盛衰は過半場所の如何にかかるものである。
 天下の商業界に第一流を占めんと欲せば、思い切って第一流の地を選まなくてはならぬ。第一流の地とは歴史的にすでに東京の目抜きの場所といわれている所で、実際上にも海陸とも交通の便利最もよく、銀行、問屋、運送店等にも至極便利のよい地を選まなくてはならぬ。しかしながらかかる地はすでに有名なる豪商等の占むる所となっていて、地方出身の人の容易に割込むことの出来るものでないから、初めは第二流、第三流の中心地を見立て、ここに城を築くがよろしい。例を取るまでもないが、織田信長や秀吉は、尾張の如き大平原に起ったけれども、武田信玄のように山間に城を築いたのではとうてい成功するものではない。四谷の片隅や小石川の谷では、日本全国相手の大商店は起る筈のものではない。ゆえに資本の少ないものは第二流第三流の地に開店しておいて、次第に資力を貯え、信用を増した上で、初めて第一流の地に出て奮闘を試みる覚悟がなくてはならぬ。
 ある歯科医はその技術においては東京でも随一と評判される人であるが、資本が充分にないために、誤って浅草の一隅に開業
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